後継者に株式を承継するための税務知識とその手法とは

事業承継においては後継者不在といった深刻な問題が取りざたされていますが、
本稿では事業承継に係る税務の部分について説明します。

事業を継続するという意味では、M&Aにより他企業への売却や合併という形での継続も考えられますが、
ここでは未上場の株式会社を前提に、
「後継者に株式を承継する」というケースにスポットを当て、その手法や税務上の取り扱いについて触れていきます。

 

 

1. 税務上の株式価額

オーナーが保有する未上場株式の税務上の価額は、財産評価基本通達に従い、

「純資産価額方式」
「類似業種比準方式」
「配当還元方式」

といった一定の評価方法により評価されます。
個々の評価方法の詳細はここでは割愛致しますが、直近の会社の純資産額、業績、配当実績といった要素により評価額が決定され、
これらの要素によって評価額は大きく異なることがあります。

 

 

2. 事業承継の手法

1. 相続による事業承継

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株式のオーナーが亡くなって相続が発生した場合、その保有株式は相続財産となり、遺産分割の対象となります。

いつかは必ず相続が発生することになりますので、
他の方法を選択しなかった場合には必然的にこの方法による事業承継が発生する、ということになります。
相続による事業承継は相続税の対象となります。

 

2. 生前贈与による事業承継

オーナーが後継者との間で贈与契約を締結することで、いつでも株式を贈与することが可能です。
(譲渡承認手続き等の手続きについては別途必要です。)
贈与は贈与税の対象となり、通常の贈与に対する課税(いわゆる「暦年課税」)と、相続時精算課税による課税の2通りの課税方法があります。

暦年課税は、年間110万円の基礎控除額を控除した残額に対し、累進税率により最高55%(平成27年1月1日以降の贈与)の高い税率で課税が行われますが、
原則としてその申告で課税関係が完結することになります。

相続時精算課税は2,500万円の特別控除額を控除した残額に対し、一律20%の税率で課税が行われますが、
その贈与財産は相続発生時に合算された上で、改めて相続税の対象となります。
この際、一律20%で課税された贈与税は、相続税額から控除されます。

 

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3.売買による事業承継

オーナーが後継者との間で売買契約を締結することで、
株式を後継者に売却するという方法もあります。

相続・贈与という手法は
相続人や親族のみが対象になることが一般的ですが、
売買であれば従業員など親族以外に対しても
事業承継が可能です。
オーナーに対しては、株式の取得価額と売却価額との差額(売却益)に対して所得税・住民税がかかることになります。

 

 

3. 各事業承継手法のメリット・デメリット

 

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1. 相続

メリット:基礎控除が大きく、累進税率の上昇も緩やか

デメリット:時期が選べず、株式の評価額をコントロールできないため、高い株価での課税を受けるリスクがある

 

2.贈与

メリット:贈与のタイミングを自由に選べるため、課税対象となる株式の評価額をコントロールしやすい

デメリット:贈与後に価額が下がった場合でも、下がる前の価額で課税を受けることになる 

◆還暦課税

メリット:基礎控除が年間110万円あるため、長期間での計画的に贈与を実施することで控除額が多額になる

デメリット:相続税に比べ、累進税率の上昇が激しい

◆相続時精算課税

メリット:特別控除額が大きく、税率も一律20%であるため、多額の贈与を行っても一時的な税負担を抑えられる

デメリット:相続時精算課税を選択した場合、還暦課税を適用できない。また相続発生時に改めて相続税の対象となる

 

3.売買

メリット:譲渡益に対し、一律、所得税15.315%(復興特別所得税含む)と住民税5%の計20.315%となり、相続税・贈与税の最高税率に比べると税率が低い

デメリット:譲渡対価として受け取った資金はオーナーの手元に残るため、オーナーの相続対策としては不十分

 

 

4. 計画的な事業承継対策の必要性

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未上場株式という財産は、流動性・換金性が低いという特徴がある一方で、
その会社の純資産額、業績、配当実績によっては思いがけないほど高い評価額になることがあります。
相続財産が現金であれば、どんなに高い税率で相続税や贈与税が生じても、
その相続・贈与を受けた現金の中から納税することが可能ですが、未上場株式の場合はそうはいきません。

平成25年度税制改正により適用要件等の緩和されたいわゆる「事業承継税制」の活用など、
様々な手法の中から、最適な対策を採っていくことが、税負担を抑えたスムーズな事業承継には不可欠です。

そのためには、早期に、かつ、計画的に事業承継対策を準備していくことが有効です。

執筆者

吉野 貴士 氏

 吉野貴士 氏