中小企業再生現場レポート 着手の遅れ

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1.着手が遅れると

抜本的な再生計画を策定して、金融支援を受けることが企業再生への第一歩です。 そして、その金融支援には債務免除・DDS・リスケジュールなどがあります。 しかしながら、新規融資という金融支援は原則として受けることができません。 なぜなら、金融機関にとっては、既往債権を免除や返済先延ばしにすると同時に、新規の資金を提供することは債務者格付上難しいためです。
※例外として、再生時の新規資金を貸し付ける制度融資を利用できる場合があります。

したがって、再生計画においては、企業が計画策定時に有するキャッシュのみで運営する前提になります。 もちろん、オーナー個人が所有している財産を会社に投下することはできますが、私の経験上再生時点でほぼすべて投下済みという企業が多いです。

そして、再生の着手が遅れた企業、言い換えますと極限まで我慢してようやく再生に取り組んだ企業には、すでにキャッシュがほとんどありません。 そうなりますと、前述のとおり新規融資は受けられず、ほとんどないキャッシュで運営することになりますので、どれだけ事業面で再生可能性を残しておいたとしても、再生が困難になってしまいます。

2.再生現場では

弊社では年間40件~50件程度の新規中小企業の私的再生案件に着手しますが、相当の割合の企業で着手が大幅に遅れています。その中には着手遅れを主要因として再生計画の策定が困難なために法的整理に移行する企業が毎年います。そして、多くの再生企業は、金融機関から融資がいよいよ受けることができなくなり、仕方なく本格的な再生に着手する企業です。
なぜ、このように着手が遅れてしまうのでしょうか。

3.窮境へのプロセス

会社の業況が悪くなり始めてから、再生に本格的に取り組むまでのプロセスは主に以下のとおりです。 社長の頭の中での自問自答でご説明します。

5期前

「あれ今期売上が落ちてきたなぁ。 あっそうか今年は○○という特殊要因があったからだ。 来期は大丈夫だろう。」

4期前

「おいおい、今期も悪いな。 さすがに不景気の影響を受けているな。 業界全体的に悪いので仕方がない。来期は戻るだろう。しかし、銀行の手前赤字はまずいぞ。償却費など簡単な操作で黒字は確保しておこう。」

3期前

「あれー、売上がさらに悪いな。 さすがに人を少し減らさないといけないな。 来期には現状の売上ベースで利益が確保できるくらいの人員を今期中に減らそう。 今期も赤字は避けなければ。 とりあえず売掛金や棚卸資産で決算数字は調整しておこう。 来期はリストラ効果で利益確保できるだろう。」

2期前

「いよいよまずいぞ。 人件費削減以上に売り上げが減ってしまった。 このままだと大幅に赤字だ。 管理部長から資金繰りが厳しくなってきたと言われたなぁ。 銀行が折り返しを渋るようになってきたようだ。 なんかまずいぞ。売上を上げる方法を考えなければ。 今期もだいぶ強引だが、決算は操作して黒字を確保しておこう。」

1期前

「銀行から決算数字の問い合わせが増えてきた。 このままだとこれ以上貸せないと言われた。 仕方ない個人財産を会社につぎ込んで何とかしよう。 新規事業として期待していたものも、とても1、2年で利益を出せるようなものにならないだろう。 もう1段人を減らして、給与もカットだ。もう数字操作も難しいので赤字計上はやむなしだな。」

再生突入期

「管理部長から資金がもって半年だと言われた。 売上が下げ止まらない。 銀行も貸してくれないし、個人資産ももうない。 仕方ないので、コンサルに相談してみるか。」

4.着手遅れの原因

前述の例ですが、ある特定企業の例をあげたわけではありません。ほとんどの企業で同じようなパターンを経ています。 遅くとも3期前には本格的な再生に着手する必要がありますが、残念ながらそれから2年~3年遅れてようやく着手する企業が多く、再生をより困難なものにしています。
その原因について、再生現場での経験上以下のように分析しています。

原因1 実現しない収益期待

「今はたまたま景気が悪いのでこうなっているだけ、あと数年で良くなるでしょう」「今こんな新規ビジネスの話がきているので、来期以降売上が増えるでしょう」などの今後の収益に対する楽観的な期待です。 この楽観的な期待により再生への着手が後手に回ることになります。

原因2 中途半端な再生着手

あくまで現在の売上高で赤字にならない程度のコスト(人員、交際費、広告宣伝費など)削減にとどまり、赤字事業の廃止や不採算工場の閉鎖など抜本的なリストラクチャリングを行いません。 その結果、翌年以降も売上減少が継続し、赤字を続けキャッシュが減少してしまいます。

原因3 利益操作

対金融機関、対取引先対策として、決算数字を操作します。それも簡単操作から始め、徐々にエスカレートしていきます。 この恐ろしい点は今年もそこそこの操作で黒字化できたので良かったというような、あたかも本当に黒字であったかのような錯覚に陥らせることです。結果として、再生への本格着手が遅れることになります。

5.対策

冒頭にお話ししましたとおり、再生の着手は早ければ早いほど成功の可能性は高まります。 そして、原因1~3のいずれにも共通しているのは経営者が、自社はすでに抜本的な再生に着手するべき状況におかれていることを自覚していないこと、自覚したくないことにあります。 「再生」ということを経営者が認め、着手することは非常につらい決断かもしれません。 言葉は「再生」ではなくても、「改革」「改善」でも結構です。 1日も早い着手が望まれます。

執筆者

金子 剛史 氏

 金子剛史 氏