小規模旅館と海外個人旅行者を結ぶプッシュMA型PaaS市場

01.インバウンド需要の現実

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訪日外客数は、東京オリンピック・パラリンピック開催が決定したこともあり、2020年までに訪日外客数2,000万人を達成する見通しである。ただし、シティホテルやビジネスホテルの稼働率は50%~70%と比較的高いが、旅館については、閑散期が20 ~30%台、繁忙期でも50%未満である。インバウンド需要の拡大は、旅館業の業績回復に結び付いていない。

02.北海道の旅館カテゴリーがインバウンド需要を取り込めない理由

筆者の勤務地である札幌市をはじめとする北海道について見る。北海道は全国平均を上回る伸び率で外国人延べ宿泊客者数が増加している地域であり、そのシェアも東京都、大阪府に次いで全国3位であるため、インバウンド需要の恩恵をかなり享受している地域と言える。しかし、旅館の稼働率は、ホテルに比して低迷している状況に変わりはない。旅館数も減少している。

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この原因の1つは事業者の規模だ。北海道には平成26年3月時点で、旅館業法上の宿泊施設数が4,808施設(うちホテル681、旅館2,482、簡易宿泊所1,645)存在するが、従業員10名以上は652施設しかない。多くが従業員9名以下の小規模施設である。小規模旅館では団体旅行を主催するエージェントからの送客は望めない。インバウンド需要を取り込むにも、海外個人旅行者(FIT, Foreign Individual Tourist)がターゲットになる。折しも、団体客中心から、個人旅行者の比率が高くなる傾向はチャンスである。しかし、小規模旅館はマーケティングノウハウに乏しく、仮に個人客向けマーケティング活動に取り組む意欲があっても、経営者自らに日常業務が集中することから、取り組む時間が制約される。更にはその資金負担が重くのしかかる。つまり、個人客の集客施策・販売促進施策を打たなければならないのに、多忙や資金難という理由で策を打てずに低稼働率の状態から脱せず、高齢化した経営者が体力と気力の限界を感じて、廃業をせざるを得ない構図ではなかろうか。筆者は、この状況の解決策として、パーソントリップビッグデータと連動したプッシュMA型PaaSに焦点を当てる。

03.プッシュMA型Paa S とスマートホテル

FITのパーソントリップデータは、無線IoT+クラウドサービスと最も親和性が高い分野である。ビッグデータの蓄積、クラウド上のデータ連携による行動予測とプッシュ型MAが実用段階を迎えている。スマートホテルのコンセプトは以下の通りである。

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スマートホテルは、宿泊客はアプリ上で予約、チェックイン、決済、ルームキー、館内の案内や観光ガイドなどの情報提供までの機能をスマートフォン上にてワンストップで行うコンセプトである。パーソントリップビッグデータと連動したプッシュ型MAによって、潜在的なターゲット顧客に対して直接訴求することも可能になる。小規模旅館でも許容可能なコストで導入ができ、運用サポートも提供するようなプッシュMA型PaaSベンダー市場が創出されるであろう。

PaaSシステムは、FITの位置や趣向性に沿ったプッシュ型MAと、予約・チェックイン・ルームキーといったスマートホテル機能の実装を、低コストで提供可能にする。

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04.プッシュMA型PaaSベンダーの出現が小規模旅館を活性化する

筆者は、IoTデバイス+PaaSシステムはホテル・旅館業と親和性が高く、小規模旅館の現状打破の手段としての可能性に着目している。
導入コストの低減を実現し、運用サポートまでも提供するようなプッシュMA型PaaSベンダーが出現すれば、小規模旅館であったとしてもFITの取り込みに成功する事例が生み出されると予想する。

執筆者

安住 昌紀 氏

株式会社エスネットワークス札幌支店長 安住昌紀 氏

北海道大学経済学部卒業。公認会計士・税理士。大手監査法人等を経てエスネットワークス入社。経理BPR、内部統制整備支援、上場企業へのディスクロージャー支援、バリュエーション、デューデリジェンス、事業再生計画策定等の業務に多数従事。地域企業への財務面・経営管理面に関する多様なサービス提供を通じ、地域経済活性化への貢献を目指す。