プライベート・エクイティ・ファンドの役割 Vol,03

プライベート・エクイティ・ファンドによる企業価値向上活動の一端をご紹介する連載の最終稿として、今回は企業再生について取り上げたい。企業再生とは、「実質的に破綻状態にある、または債務超過の状況にある企業を、法人格を維持したまま立ち直らせること」、と定義される。近年で最も有名な例として、日本航空の再生についてご存知の方も多いであろう。本稿では、企業再生案件の特徴を整理するとともに、企業再生案件においてファンドが果たしうる役割と意義についてご説明させていただきたい。

ケーススタディ 企業再生のケース

企業再生のケース

企業再生の対象となる企業は、競争環境の変化の中で自らの収益基盤を維持することが出来なくなり、事業の継続が困難になった企業である。収益基盤の維持が困難になった背景は多岐に渡り、売上面では市場そのものの縮小や競合他社との競争激化、自社製品やサービスの向上を怠り顧客ニーズに応えられなくなった等が挙げられる一方、コスト面では原価の高騰や原材料の調達力低下の他、定常的にかかるコストの管理不徹底等が挙げられる。

企業再生を成功させる秘訣は、既存のやり方を改善するレベルに留まらず、抜本的な『改革』を意識して、①やるべきことを絞り込み、②コストは費用対効果を厳密に評価・管理し、③組織の実行能力を最大限引き出すことに尽きるが、我々が企業再生案件を手掛ける際に特に意識していることを総括すると、以下の2つのポイントが挙げられる。

従来の『慣性』のゼロベースでの見直し

改善ではなく『改革』レベルの取り組みを行うには、手法もさることながら、従来とは異なる変化を生み出す問題解決のアプローチが必要と考えている。それは、従来暗黙の裡に当たり前のこととして疑われてこなかった既存の事業を構成している全ての要素をゼロベースで見直すことである。不要不急のコストを洗い出し、削減するのはもちろんのこと、製品・サービスラインアップやプライシングなど、固定的に考えられていた提供価値や業務プロセスを棚卸しし、徹底的に自社でコントロール可能なことが何かを見極め、必要に応じてステークホルダーにも積極的に働きかけて協力を仰いでいくことが重要と考えている。

我々は、第三者の立場から客観的に事業を分析・評価し、その企業がフォーカスして提供すべき価値の見極めを支援してきた。さらに、緻密な実行計画の策定からこの計画の厳格な遂行についても、投資先に常駐してハンズオンで支援してきた。

社内コミュニケーション総量の劇的な増加

現状の正確な理解とその理解に基づく危機意識の共有は、企業再生を成功に導く第1歩である。組織が停滞している企業では、外から見ると上司と部下の間のコミュニケーションが希薄だったり(=タテのコミュニケーション不全)、1人ひとりが自分の業務にばかり目を向け、周りと協調していない(=ヨコのコミュニケーション不全)といった場面がよく見られる。さらに、これらの企業では、問題があったときでも組織としての把握が遅れたり、また、企業としての対応が徹底されないといったことが起こりがちになる(=全社的なコミュニケーション不全)。我々は、タテ・ヨコ・全社の全ての観点から社内で交わされるコミュニケーションの総量を劇的に増やすことが、改革に取り組む組織の活性化に必須と考えている。そのためには、経営陣が率先してコミュニケーションを促すことが重要である。

我々は、定期的に開催される会議体のあり方を見直し、非定常的な取り組みとしてクロスファンクショナルチームによる新規プロジェクトを組成するとともに、経営陣と二人三脚でこれらすべての会議における議論をファシリテート(※1)することで、社内における情報の流れを促進し、組織としての実行能力の向上を支援してきた。

※1:ファシリテートとは:会議、ミーティング等の場で、発言や参加を促したり、話の流れを整理したり、参加者の認識の一致を確認したりする行為で介入し、合意形成や相互理解をサポートすること。

取り組み事例

企業再生案件において、成長を阻害する要因を具体的な課題として明確化し、改善に取り組んだ実例を2つほどご紹介したい。

1. 経営陣の強力なリーダーシップによって新規事業分野への進出を果たし、再生を実現したケース

事業を構成している要素を紐解く中で、その企業が持つ有形・無形の資産の評価を行った。事業環境の変化に照らすと、既存の事業領域に留まることでは収益の成長余地に限界が見えたことから、新規事業分野の検討を開始。既存事業において収益性を改善する活動と平行して、約2年をかけて新規事業を確立するに至った。単に既存の事業領域で縮小均衡を図るのではなく、ゼロベースで新しい『慣性』を生み出すことによって再生を果たすことが出来た。

2. 全店長を集めた週次会議において全ての経営課題をオープンに議論することを通じて、現場における実行能力の底上げを実現したケース

小売業は、現場スタッフのモチベーション次第で売上が大きく変動する事業であるところ、従前まではプロダクトアウトの発想が根強く、マーケティング視点を持った顧客対応が十分に行われていなかった。こうした状況下において、店舗オペレーション改革をリードする存在として、店長の育成に着手した。彼らが経営陣の代弁者として機能するよう、週次で開催される全体会議への参加を必須とし、この中で全ての実行計画のレビューを行うことにした。この取り組みを通じて、全社一丸となって問題解決にあたるという意識が高まり、打ち手に対する実行能力が底上げされた結果、収益の改善が徐々に加速していった。

結言

このように、我々は、改善に留まらない抜本的な改革の実行を意識し、事業領域の再定義から組織改革まで、経営陣と二人三脚で企業再生に取り組んできた。再生の意義は、極度に内向きに陥りがちであった思考を、変化を捉えた上で自らその変化に向き合っていく外向きの思考に変えることと言えるが、これは、日々変化をデザインし、1つずつ成功体験を積み重ねていくことでしか実現しないと考えている。

企業が、中長期的に持続的な成長が可能な企業づくりを支援するプライベート・エクイティ・ファンドは、ハンズオンによるスピーディな意思決定と変革を粘り強く支援するパートナーとして、企業を再生へと導ける存在と考えている。

Comment 財務・会計コンサルタントからのコメント

再生局面における企業においては、直面する経営状態の解決に向け、記事にもあるとおり、特に抜本的な改革を早急に実施する必要があると感じます。しかしながら、渦中にいる企業だけではリソースやノウハウの不足により抜本的な改革をスピーディーに行えないケースが多くあります。また、コミュニケーションが不足している等の社内環境における何らかしらの問題が生じているケースも多く見受けられますが、社風として浸透していることもあってか、社内でなかなか打ち手を講じられてないことが多く見られます。そのような状況の中、これまでとは異なる視点や強力なリーダーシップ、他の投資案件における様々なノウハウを持ったプライベート・エクイティ・ファンドがまさに重要な役割を担っていると実感します。

25株式会社エスネットワークス 経営支援第1部 第3部長 公認会計士試験合格者 園田 裕輔
中央大学商学部卒業。公認会計士試験合格後、エスネットワークス入社。入社後は、クライアントに常駐しKPI管理導入の実行支援やシステム導入のプロジェクトマネジメント等に従事。また、フロント側のシステム導入についての案件実行経験も複数あり。現在は、BPRやPMI等の常駐案件、財務デューデリジェンスやバリュエーション等のスポット案件のマネージメントを担当。

執筆者

村上 大輔 氏

株式会社アドバンテッジパートナーズ ディレクター 村上大輔 氏

京都大学エネルギー科学研究科卒業後、ゴールドマンサックス証券東京支店にてトレーディング業務に従事。その後、アドバンテッジパートナーズに参加。MEIコンラックス、レインズインターナショナル、成城石井、ザクティ、りらく、エポック・ジャパンの案件に従事し、経営理念の策定、事業計画策定支援、経営管理指標の設計及び運用体制の構築、財務戦略の推進・実行支援、戦略的IR/PR計画の策定・実行支援、国内外M&A検討支援等のプロジェクトを担当。