中小企業が押さえるべき原価計算・利益管理のポイント

どんな業種業態であっても、ビジネスをする上でまず考えるのは 『どれぐらい儲かるか?』 です。
この『どれぐらい儲かるか?』を因数分解すると 『どれぐらい売れるか?』 『どれぐらい費用が掛かるか?』 になります。
『どれぐらい売れるか?』は比較的シンプルな話になりやすい一方で、
『どれぐらい費用が掛かるか?』という話はビジネスや企業規模の拡大や製造内容の複雑化により、どんどん複雑になっていきます。結果として中小企業経営の現場では『どれぐらい費用が掛かるか?』を計算する原価計算が徐々に放棄されていきます。
原価計算から逃げてしまっている中小企業では、 適切な原価削減活動は行われにくく、また 場合によっては赤字製品の受注や、不当な値下要求を飲んだ低廉受注が多くなる傾向にあります。
そのため、私たち経営コンサルタントが関与させていただく場合には、改めて原価計算を行う事によって利益改善ポイントを導き出せるケースが多くあります。
本稿ではその際に押さえるべきと考えられる原価計算及び、利益管理のポイントを示させていただきたいと思います。

Point.1何が変動費で何が固定費かを明確にする

当たり前ですが、原価には変動費と固定費があります。変動費は材料費等のように売上の量によって変動する費用であり、固定費は既に契約してしまっている設備のリース料等のように売上の量によって変動しない費用です。原価計算を勉強されたことがある方であれば当たり前の概念ですが、何が変動費で何が固定費かを分解(固変分解)し、限界利益(売上高-変動費)を算出するといったことができていない会社が世の中では意外に多く存在します。
例えばa製品だけを売っているA社があるとします。a製品を1個100円でB社に毎年100万個製造販売しています。売上原価は1個当たり95円かかるので、毎年の売上総利益は500万円です。販管費以下で1,000万円かかるので、毎年500万円赤字の会社です。そこにa製品を1個90円で毎年120万個売って欲しいというオファーが、C社から来たとします。C社のオファーを受けるためには、B社への販売を全て辞めなければなりません。1個作るのに売上原価が95円かかっていた製品なので、それだけで考えると断るべきオファーになります。しかし固変分解を行ったところ、1個当たり売上原価95円の内訳は変動費10円と固定費85円(100万個換算で年間8,500万円)でした。これを元にC社のオファーを再検討したところ、以下のとおり受けるべきオファーと判断されます。

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以上はあくまで一例ですが、固変分解を行わず限界利益概念が明確になっていないと、様々な意思決定ミスが起こり利益ロスが起こります。そのため、まずは会社として何が変動費で何が固定費かといったところを定義し、限界利益概念を明確にして、その意識をざっくりでもいいので、見積りをする営業担当者レベルまで浸透させることが重要です。

Point2.重要ではない費用の配賦に労力を掛けない

中小企業の現場で原価計算が継続的に行われていない最大の理由は『面倒だから』だと思います。確かに原価計算は面倒です。ただ、世の中の多くの企業ではいざ原価計算をやろうとすると、急に真面目になって精緻にやりすぎる傾向があります。

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例えば右の原価構成になっている2つの会社があったとします。甲社は製造業だと思われますが、材料費が売上原価の大半です。このような業態の原価管理としては、その製品を作るための材料費がいくら掛かるかが肝であり、そこさえしっかり管理できていれば、ある程度問題ないかと思います。しかしながら僅かな比率の労務費や機械費用を配賦するために、事細かに製造日報をつけて集計し、配賦計算を行おうとする企業が多く存在します。そうなってしまうと、一気に原価計算が煩雑になり継続が困難になります。一方で乙社のようなほとんど人件費といった原価構成の場合、当社のコンサルティング事業もこれに近いですが、人件費の配賦計算が原価計算の肝になり、その場合には日報等での稼働の集計が必須となります。

以上は極端な例ではありますが、業種業態ごとに重要な費用とそうではない費用があり、そうではない費用の計算に労力を掛けないことが原価計算を継続する上でのポイントになります。

Point3. 金利の概念を意識する

3つ目のポイントは単純な原価計算の話からは飛躍しますが、利益管理のポイントとして金利の話をさせていただきます。
例えば前出のA社において、B社取引からC社取引に乗り換えた後に、a製品を91円で年間120万個買うというD社が現れたとします。しかし、C社売上が翌月末の現金入金であるのに対して、D社売上は翌月末に150日サイトの手形の受取だとします。入金条件を別にすれば、1個当たり1円単価が上がるので、年間120万円の利益の上乗せになります。一見、D社取引の方に経済合理性があるという話にも見えます。しかしながら、D社取引となった場合には入金サイトがさらに150日(5カ月)伸びることとなります。仮にD社が大企業で信用力としては問題なさそうだったとしても、その点でいえば明らかに不利です。何となく1円単価が高いだけで150日手形はちょっと…というのが直観的なところですが、この話が単価95円という話だったら、または90日手形だったらどうでしょうか。その様な様々なケースに対応するために、ここで推奨させて頂くのは金利の概念を原価計算に付加する考え方です。通常、営業外費用となる支払利息を管理会計上、売上原価と捉えて原価計算に反映させます。D社取引を行う場合、C社取引に比べて、入金サイトが5カ月伸びることになります。すなわち、5カ月分の売上高を追加で貸し付ける状態になるので、A社としては余剰資金がない限り、5カ月分の売上高に相当する金額を調達する必要があります。当然そこには資金調達コストが掛かってきて、多くの中小企業の場合、それは銀行に対する金利になると思います。

では年利2%で銀行から調達できる場合、年利2%で金利コストを原価に付加して考えればよいかというと、それは違います。もしA社が金融業であれば年利2%で調達してきたお金を、年利2%では貸しません。調達金利に加えて倒産リスク等を上乗せして、2%よりも高い金利設定を行います。本件のD社取引において加味する金利コストを仮に年利10%だったとします。その場合には以下のシミュレーション結果となります。単価91円では、入金サイト延長による金利コスト分の売上増が確保できなく、仮に150日手形を認められるのであれば、最低でも単価95円が必要という事になります。利益管理上、何となく見過ごされがちな入金条件や支払条件に関する差異も、上述のように金利の概念を用いて定量化すれば比較検討が可能になります。

※販売単価×1カ月当たり販売個数×5カ月

※販売単価×1カ月当たり販売個数×5カ月

これら全てが当たり前の話ですが、意外と中小企業の現場ではできていない3つのポイントです。
そして原価計算や利益管理を行う上で何よりも大事なのが、ざっくりの計算でも良いので毎月継続して行う事。その上でその計算結果を用いて議論や意思決定を行う事。これを繰り返していくことで、徐々に利益管理のレベルが上がっていきます。

執筆者

北川 雄也 氏

株式会社エスネットワークス 経営支援第2事業本部 コンサルティング1部 部長 北川雄也 氏

慶應大学経済学部卒業後、当社へ入社。上場・未上場会社の決算支援・業務改善やIPO支援等のサービスに幅広く従事。現在は10社の顧問先企業に対して各種利益改善支援を行いながら、事業再生計画の策定や事業価値算定業務に従事している。