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プライベート・エクイティ・ファンドの役割 vol.02

今回は、カーブアウトについて取り上げたい。
カーブアウトとは、「企業が保有する子会社や事業の一部を切り出し、第三者の資本や経営を受け入れて独立すること」と定義される。
具体例として、パナソニックによるヘルスケア事業の売却についてご存知の方も多いであろう。報道によると、事業の選択と集中の観点からノンコアと定義され、売却が決断されたようであるが、これはまさにカーブアウトの主な背景そのものである。
本稿では、カーブアウトの特徴を整理するとともに、カーブアウトにおいてファンドが果たしうる役割と意義についてご説明させていただきたい。

ケーススタディ 事業承継のケース

カーブアウトのケース

カーブアウトの特徴として、このタイプの取引は複数の事業を運営する会社にとっては、どの会社でも起こり得ることと考えている。

事業環境が絶えず変化する中、大局的な観点から中長期的に自社の経営の軸足をどこに定めるのか、限られた経営資源を如何に戦略的に配分するのかといった検討がなされた結果、選択と集中のスコープから外れる事業が定義されるかどうかは、その会社が如何にダイナミックな経営判断を行うか次第といえる。昨年コーポレートガバナンス・コードが施行され、ROEといった資本効率を意識した経営が求められていくことを踏まえると、今後カーブアウトの事例は増えていくのではないかと予想される。

また、カーブアウトにおいては、対象会社が旧親会社グループ内で培った技術や事業ノウハウをビジネスモデルやオペレーションの細部を理解した上で適切にパッケージングし、これらのアセットを以前と同様の態様でスムーズに漏れなく承継することが大前提となることには、留意が必要であろう。

我々が過去手掛けたカーブアウト案件を総括すると、企業価値の向上を図る上で共通して抑えるべきポイントは以下の2点と考えている。

保有する経営資源を核として如何に収益基盤を再構築するか

カーブアウトに伴い、それまで旧親会社傘下で最適に設計されてきた事業構造は、その事業を成り立たせている前提条件が大きく変わることで、見直しを迫られることがある。この場合、顧客、及びプロダクトやサービス双方の観点から、本来顧客たり得る先はどこなのか、新たな顧客ベースを前提としたときに提供しうるプロダクトやサービスは何であるかを、保有する経営資源を核に広い視野から構想することが重要である。
PEファンドは、第三者の立場から対象会社が獲得しうる収益機会の仮説を構築し、マネジメントとのディスカッションを経て明確化されたそれぞれのスコープを、詳細なロードマップに落とし込むまでの活動を支援してきた。さらに、その後の実行段階においても、緻密な進捗管理に加え、M&Aやアライアンスの推進といった活動を通じて、収益基盤の再構築や強化を支援してきた。

適切な粒度の経営管理を通じた組織変革

多くの事業を抱える大企業では、全ての事業を共通の指標で管理することを優先するあまり、事業ごとに見るとそれぞれの経営の実態がわかりづらいことが少なくない。こうした事業がカーブアウトによって独立した際、まず初めにその事業の経営の実態を管理するのに適切な指標を新たに定義する必要がある。また、あわせてこれらの指標を如何なる粒度で管理するかによって、組織全体の行動様式に与える影響が大きく異なってくると考えている。
親会社によって定義された指標の範疇で事業を捉えていた組織にとって、慣れ親しんだ行動様式の見直しに繋がる経営指標の改変を自ら推進することは、決して容易なことではない。我々は、企業の変革を支援するチェンジエージェントとして、ビジネスモデルを紐解き、思考と行動の変化を促すKPIを定義し、その運用を徹底することで、組織変革の実現を支援してきた。

取り組み事例

カーブアウト案件において、成長を阻害する要因を具体的な課題として明確化し、改善に取り組んだ実例を2つほどご紹介したい。

1. 新たな事業の柱を構築すべく新規事業開発を支援したケース

主力事業における競合間の競争が激しく、収益の成長余地に限界が見えていたことから、投資実行初年度から新規事業の検討を開始した。
保有する技術資産を活かすことができ今後市場の拡大が見込める事業分野を洗い出し、優先的に注力すべき製品カテゴリの特定を支援した。市場の変化の半歩先を行く製品提案に繋がり、既存・新規それぞれの顧客からの新たな収益機会の獲得を実現した。

2. 旧親会社傘下において、開発コストが製品ごとに紐づけされていなかったため、製品別の収益管理が出来ていなかったケース

それまで、開発担当者は、顧客の要望には最後まで対応しきることを前提としていたため、工数を管理するという発想に乏しかったところ、開発担当者の工数をモデルごとに厳密に予算化し、日々実績を入力する運用の導入を図った。製品別の収益性が可視化されたことで、暗黙の裡に根付いていた開発コストはサンクコストとの認識に変化が生じ、どこまで対応すべきかの線引きにメリハリのついた開発プロセス管理が徹底されることとなった。

結言

このように、我々は対象会社の事業の在り様を第三者の立場から定義し、チェンジエージェントとして組織の行動変革を伴う活動に数多く取り組んできた。
また、対象会社が持つ有形・無形のアセットから潜在的な事業機会を構想し、新たな収益機会の獲得までの支援も行っている。
カーブアウトの意義は既存の戦略的、組織的制約からの解放であると考えると、その会社が本来社会に提供しうる価値の最大化を図り、中長期的に持続的な成長が可能な企業づくりを支援するプライベート・エクイティ・ファンドは、カーブアウトの受け皿として期待される役割を担えると考えている。

Comment 財務・会計コンサルタントからのコメント

弊社がカーブアウト事例をご一緒させていただく際に、カーブアウトこそプライベート・エクィティ・ファンドと親和性が高いと感じる部分が多くありました。ひとつには、カーブアウト対象事業(会社)が今まで単一事業体でなかったために生じる、機能組織的に不十分な部分(財務、IT、人事、企画機能等のインフラ面)を補うノウハウを充分にお持ちであるため、PMI(買収後統合業務)が非常にスムーズに進む点であります。他方、カーブアウト前の事業体では投資検討が充分にできなかった成長事業に対して戦略的な対応を新しい知見で検討し、重点投資の実行が可能となる部分であります。その他、カーブアウトでは一般的に承継された経営幹部・従業員の方々が弱気になっている場合も多いが、上記の取組みによるリーダーシップや、多分野での専門的な能力の発揮によって企業に活力が戻り、従業員自身の手で成長の道をたどることが、カーブアウト対象企業にとってのファンドとしての最も大きな貢献だと感じております。

29株式会社エスネットワークス 経営支援第2部長 公認会計士 税理士 熊谷 伸吾
東京大学卒業。プライベート・エクイティ・ファンド投資後のPMI(Post Merger Integration)や、上場・IPO準備会社等の経理BPR等を幅広く手がける。 カーブアウト形式でのPMIにおいても複数件の関与実績あり。今期からは国内だけでなく、日系企業子会社の海外PMIにも積極的に取り組んでいる。

執筆者

村上 大輔 氏

株式会社アドバンテッジパートナーズ ディレクター 村上大輔 氏

京都大学エネルギー科学研究科卒業後、ゴールドマンサックス証券東京支店にてトレーディング業務に従事。その後、アドバンテッジパートナーズに参加。MEIコンラックス、レインズインターナショナル、成城石井、ザクティ、りらく、エポック・ジャパンの案件に従事し、経営理念の策定、事業計画策定支援、経営管理指標の設計及び運用体制の構築、財務戦略の推進・実行支援、戦略的IR/PR計画の策定・実行支援、国内外M&A検討支援等のプロジェクトを担当。