プライベート・エクイティ・ファンドの役割 vol.01

読者の皆様はプライベート・エクイティ・ファンドをご存じだろうか。
プライベート・エクイティ・ファンドとは株や債券といった伝統的な投資商品と異なる資産への投資を行うオルタナティブ・インベストメントの一種であり、年金や生損保、銀行、投資顧問会社、大学の基金その他の機関投資家から預かった資金を一般に非上場会社に投資した後、その企業の経営に関与して企業価値を高めた上で保有する株式を売却してリターンを得るファンドを意味する。
投資先の選別にあたっては、対象会社が置かれている市場や競争環境において安定的に収益を上げうる競争優位性を有していることが出発点となるが、現実として圧倒的な競争力を持つ業界トップ企業であったり、順調に業績が拡大していく成長企業に投資できるケースは少なく、急激な事業環境の変化に事業モデルの変革が追い付いていない、現状の成長ペースに組織の整備や経営が追い付いていないなど、何らかの『成長の壁』に直面しているケースが多い。
従って、これら各社各様の経営環境にある会社に投資するにあたっては、対象会社が長きにわたり築き上げてきた独自の事業モデルや組織としてのケイパビリティを第三者視点から客観的に評価し、外部からの経営資源の投入により新たな成長ストーリーが描けることの見極めが重要となる。

今回の連載では、プライベート・エクイティ・ファンドで働くプロフェッショナルが、投資先の経営陣とともに日々如何なる経営課題に直面し問題解決にあたっているのかについて、①事業承継 ②カーブアウト ③企業再生の3つの案件タイプを取り上げてご紹介したい。
各ケースにおいては、そもそもそれぞれの案件タイプを我々がどう捉えているのか、成長に必要な要件をどう見定め、如何に具体的な課題として落とし込み、改善に取り組んだ結果として現場に如何なる変革がもたらされたのかをできる限り具体的に描写することで、プライベート・エクイティ・ファンドがどのような思考やスタンスをもって企業価値向上に取り組んでいるのかの理解の一助となれば幸いである。

Comment 財務コンサルタントからのコメント

弊社は、M&A後のPMI(ポストマージャーインテグレーション)において様々なプライベート・エクイティ・ファンドと協力して業務を行ってきた。プライベート・エクイティ・ファンドにより、また案件ごとに投資後の経営関与のスタンスは様々である。取締役会や経営会議もしくは重要なプロジェクトの会議で経営をコントロールするスタンス、会社の中に入り込んでより密接に経営陣や幹部とコミュニケーションを取りながら経営をコントロールするスタンス等々。後者のスタイルで投資先の経営に関与されているプライベート・エクイティ・ファンドも数多く存在する。弊社は常駐して会社の中に入り込み、経営陣・幹部と共に課題を解決していくサービススタイルを採っており、そのようなプライベート・エクイティ・ファンドと我々は非常に親和性が高く、様々なPMI案件においてサポートを行ってきた。そのようなプライベート・エクイティ・ファンドの中からアドバンテッジパートナーズ様に記事を寄稿頂き、本連載においては弊社としては各事例における我々から見たプライベート・エクイティ・ファンドの動きについて第三者としての客観的な印象を記載させていただく。

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ケーススタディ 事業承継のケース

株式会社レコフのデータによると、事業承継は成約件数が年々増加傾向にあり、直近2013年と2014年度においては200件超の件数を数えるほどになっている。事業承継案件においては、幾多の試行錯誤を経て創業者が築き上げた事業モデルとその構築に至る上で創業者が拠り所としていた顧客ニーズに関する強烈な仮説を如何に紐解き、それを組織として承継できる経営管理体制を整備することがまず初めに取り組むべき最大の経営課題であり、その後の全ての経営改善活動のベースになるものと考えている。
我々が過去手掛けた事業承継案件を総括すると、企業価値の向上を図る上で共通して抑えるべきポイントは以下の2点と考えている。

次世代の経営幹部の育成も含めた組織的経営の実現

後継者の育成はどの会社でも経営トップの最重要課題の1つであるが、事業承継においては事業の仕組みをその背景も含め包括的に理解している人物が創業者を中心として極めて限られた幹部に留まるケースが多く、また、独自の事業モデルが言語化されて共有可能な形で存在しているケースも少ないことが、後継者へのバトンタッチがスムーズに進まない大きな要因の1 つとなっている。この課題を解決するアプローチの1 つとして、我々は過去の投資経験を通じて培った事業に関する知見を活用することで独自の事業モデルの形式知化を図り、この形式知化された知識を経営幹部内の共通言語として根付かせることでいわゆるコミュニケーションの型を作り、彼らが行う意思決定を支援してきた。

従来の方法論に留まらない新たな勝ちパターンの構築による、
中長期的に安定した経営基盤の構築

1度完成された事業モデルは組織の隅々にまで最適な形でルーチンワークとして浸透しているため、その一部のみを個別最適を追求する意図で変更することはたいていうまくいかない。一方で、消費者の嗜好の変化、競合や代替サービスの出現など、事業環境が日々厳しさを増していく中、従来の成長を牽引した仕組みが徐々に競争力を失うことは避けることができない。こうした状況下において、形式知化された独自の事業モデルをその事業の前提となっている顧客ニーズや典型的な顧客像といった顧客側からの視点と、自社のユニークな提供価値やその価値提供を可能にする組織としての強みが何であるかという提供者視点から見つめ直すことは新たな事業機会を捉える上で一つの有効なアプローチと考えている。我々はこのプロセスを通じて有形無形の制約条件を明らかにし、事業モデルとの整合性に留意しながら1つひとつ解消することで、新しい戦略ストーリーを紡ぎだすための活動を支援してきた。

取り組み事例

事業承継案件において、成長を実現する上での制約を具体的な課題として明確化し、改善に取り組んだ実例を3つほどご紹介したい。

1.創業者が事業を細部に渡って管理運営していたため、幹部は限定的な役割の中でしか職責を果たせておらず、創業者が退任した以降の経営に不安を残していたケース

会社が提供している商品やサービスの価値を突き詰め、これらを顧客に提供するプロセスにおいて如何にマージンを創出しているのかをバリューチェーンを詳細に分解することで明らかにした。その後経営管理体制を構築し、数字やKPIに基づく意思決定が可能となるインフラを整備。これらの共通言語をベースとして週次の経営会議において徹底的な議論の経験を蓄積することで、事実と計画に基づく経営が根付くこととなった。
その結果、投資後1年半後に内部昇格の社長を選任することが出来た。

2.店舗開発において、立地開拓力と想定客数の精度は高いレベルにあったものの、一部の経営幹部の属人的なノウハウにとどまっていたため、新たな出店モデルの構築に苦慮していたケース

出店候補地のスクリーニングプロセスを見える化し、出店モデルを構築。出店基準が可能な限り恣意性を排除した形になったことで、アルバイトでも一定のスクリーニングが可能となった。その結果、店舗開発スタッフは成功確度の高い物件の獲得に注力することができたことで、業務効率が格段に上昇した。その後、従来とは異なる立地における出店の可能性に着目し、テスト出店を重ねる中で精度の高い出店基準作り込みを主導。新たな出店フォーマットの開発プロセスも標準化されたことで、事業の成長余地を格段に広げることが出来た。

3.現場力は優れていたが、経営がプロダクトアウト志向だったため、来店客数の減少傾向に対する打ち手に悩んでいたケース

消費者目線に立った現場の改革に実績を有する経営陣を外部から招聘し、顧客志向を導入。挨拶のような基本動作を評価基準に加えたり、研修プログラムを大幅に拡充するなど顧客志向が業務ルーチンに根付くまで徹底して取り組んだ。実際に業績という形で成果が出て、それまで半信半疑であった現場において主体性を持って顧客志向を実践するまでに約1年を要したが、その後従来から強みであった商品開発力との両輪により、業績拡大が加速することとなった。

結言

このように、PEファンドは常に創業者、もしくは経営者視点で事業の在り様を直視し、会社の中長期的な成長に向けた取り組みを、常に当事者意識をもって会社側と二人三脚で進めている。当事者意識を持つとは、その時々の状況に応じて現場から直接情報を収集し分析した結果を経営陣に報告したり、時にはプロジェクトリーダーとして実行そのものを支援するなど、形式にはこだわらないが、結果にこだわるスタンスとご理解いただければと思う。過去の投資活動を通じて蓄積してきた事業や経営に関する知見やノウハウをベースに、対象会社を取り巻く事業環境を客観的に捉え、その時々において何が重要な経営課題であり、どうすれば会社が成長するのかを常に前提を排除した視点で認識し当事者として打ち手を講じていくことが、価値創造に関わるプライベート・エクイティ・ファンドの存在意義と考えている。

Comment 財務・会計コンサルタントからのコメント

当社が経営インフラ構築などにおいて、記載の事例のような事業承継の案件でプライベート・エクイティ・ファンドの方々とご一緒した際に、最も強く思うプライベート・エクイティ・ファンドの特徴は、事業の飛躍をもたらす点と感じる。取組事例に記載のような論点を実行することが大切なのは、改めて提示されればおそらくどなたでも同様に感じると思われるが、長らく同じ体制で経営を続けているとどうしても“慣れ”で現状維持にて進めてしまっていることが多い。そこに外部の血が入ることで、改めてこれまでより大きな事業の飛躍の可否について、客観的な目を加えた形で再検討することが事業の成長に強くプラスを与えているように思う。
事業承継の局面においては、現状の事業が問題無く次代につながることが第一義ではあるが、それだけに留まらず、副次的に事業の飛躍をもたらす面もあわせて、今後プライベート・エクイティ・ファンドが重要な役割を担うのではないだろうか。

30株式会社エスネットワークス 経営支援第3事業部 部長 橋本 卓也
慶應義塾大学法学部卒業。公認会計士試験合格後、新日本監査法人(現 新日本有限責任監査法人)へ入所。会計監査業務や経理関連のフロー構築業務に従事する。その後、有限会社オープンクローズを経てエスネットワークスへ入社。
複数の常駐案件、M&A案件に従事。現在は第3事業部の部長として、主にPMI案件の対応を中心に行っている。

執筆者

村上 大輔 氏

株式会社アドバンテッジパートナーズ ディレクター 村上大輔 氏

京都大学エネルギー科学研究科卒業後、ゴールドマンサックス証券東京支店にてトレーディング業務に従事。その後、アドバンテッジパートナーズに参加。MEIコンラックス、レインズインターナショナル、成城石井、ザクティ、りらく、エポック・ジャパンの案件に従事し、経営理念の策定、事業計画策定支援、経営管理指標の設計及び運用体制の構築、財務戦略の推進・実行支援、戦略的IR/PR計画の策定・実行支援、国内外M&A検討支援等のプロジェクトを担当。