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「会計は嫌い」だった新人が、やがてはてな上場の立役者に! 一流のCFOが歩んだキャリアの軌跡とは?

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はてなといえば、日本のインターネット黎明期から、ベンチャーとして名を馳せてきた企業だ。「はてなブックマーク」や「はてなブログ」などのウェブサービスの運営で知られるが、このたび設立15年目にして東証マザーズ上場を達成。その立役者のひとりが、CFOを務める小林直樹さんだ。IPOを成功させた舞台裏…の前に、現在に至る道筋についてたっぷりと語ってもらおう。

希望と裏腹に、不動産の経理担当に…。
しかし振り返れば、基礎が学べた面白い時代

−−これまでのキャリアを教えてください。

「紆余曲折ありますが、最初が不動産ディベロッパー、次に財務コンサルティング、バイオベンチャー、エネルギーベンチャー、そしてネットベンチャーのはてなです。一貫して財務経理、いわゆるCFOの道を歩いてきましたから、自分では『多様な業種、一貫した職種』と言ってます(笑)」

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−−不動産に入ろうとしたときから、会計財務にご興味が?

「いえ、嫌いで避けていたくらいで(笑)。私の新卒時代、総合職はどこに配属されるかわかりませんでした。面接のとき『財務できるよね?』と聞かれて『やれといわれたら』と答えたことが会計財務との出会いだったような…」

ときはバブルで新卒200人という時代。簿記1級を持つ人材もザラ。本当は都市再開発事業など、いわゆる“不動産マン”に憧れていたというが、意に反して本社の経理部に配属された。天命と思い「好き嫌いは言わず、来た仕事は全部やる」の姿勢で、バリバリ働いた。すると、どんどん仕事が面白くなっていったそう。

「最初はいわゆる経理の仕事。本社で仕訳を切ったりといった会計業務とディスクロージャーです。その後、本社の経理マンは支店に出て現場で丁稚奉公…。現場ですからお客様に対して直接住宅ローンのサポートを行いましたが、バブル崩壊後の厳しい環境下で難しい案件が多く、先輩にもしごかれましたね。再び本社に戻って借り入れ担当です。当時は1兆3000億円程の有利子負債を有し、財務マンの対応金額としても天文学的な数字でした。振り返るとこれらの業務は財務経理マンのやるべきことが全部できた時期で、私の中では『CFO基礎養成時代』と位置づけられています」

−−その不動産ディベロッパーにはどれくらいいたのですか?

「約10年です。最初は『何年持つかな…』って感じでしたが、印象と違いました。この業界はファイナンスが生命線なので特に財務部門が重視されるんですよ。当然監査法人さんとの対話も重要で、投資家や債権者にキッチリとディスクロージャーできないと、厳しい目で見られます。ルーチン業務をしているイメージがあるかもしれませんが、経理財務って実は経営に密接した会社の中枢であることを理解してからは経理財務が大好きになっていったわけです。」

独立後は“大海原”で数々のベンチャーを渡る。
資金調達から企業再生まで「一通りやった」

「10年で経理財務の仕事をひととおり経験できた」と考えた小林さんの耳に、成長企業の上場サポートで定評のあるトーマツが、「今後グループのコンサルティング会社で、これからの日本を支えていくようなベンチャーを支援するサービスを本格的にスタートする。」という話が入った。話を聞き迷わず、「やります!」と…現在の会社内だけでの経理業務にとどまらず、もっと沢山の会社を見てみたい。“大海原”で力を試したいと考えていた小林さんはこの時、経営管理に携わる様々な分野の人材が集まるチームへの参加を決意した。途中、大組織特有の壁にぶつかることもあったが、監査法人に転籍して苦労しながらもベンチャー支援に熱心なパートナーと協働することで、晴れてトーマツの子会社を立ち上げ(後のトーマツベンチャーサポート株式会社)ベンチャー支援実務を行うことになる。

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−−今までと大きく変わったことは?

「会社の中からは見えなかったことが見えるようになりました。色々な会社を外から見て、沢山の経営者の方にお会いして、それぞれの実情に触れられるというのは今までに無い経験でした。1社だけだと、そこの考え方・文化しかわかりませんから。ただし関与の度合いが限定的というデメリットもあると思っています。深入りしたくても仕事の範囲が決まっています。また親会社は監査法人ですから、クライアントとすごくいい関係ができたとしても、会社としてはリスクを取れない部分がありました(苦笑)。コンサルタントとしての仕事は知識の幅も広がってよかったのですが、やっぱり会社は深堀しないと得られないこともあるかなと。“大海原”に出たはいいものの、立ち返って目的地を決めて向かうことが重要だと気づきまして」

−−それでバイオベンチャーへ?

「実はクライアント企業だったんです。設立から最初のファイナンスまでをサポートする裏方CFOだったのですが、社長から来ないかと声を掛けていただいて。この業界はハイリスクですがダイナミックかつグローバルで、とても面白いと感じていました。初めてCFOを拝命した瞬間でした」

−−おいくつだったんですか?

「40歳くらいです。CFOとはいえどベンチャーですから、“F”つまり会計・ファイナンスのみならず経営企画、人事総務、IR、法務など本社機能全てを担いました。勿論1人でやるわけではなく、社内のマネージャーや外部の専門家と直接やり取りしながら進めていましたね。経営メンバーであり且つ“F”巨額な資金調達の責任を負うCFOは今までとは全くちがったプレッシャーがあったと思います。こちらの会社では6年くらいCFOを勤めさせて頂きました。新薬の効果がほぼ確認でき、一番バリューが上がるタイミングでEXITをするシナリオでした。ただ、丁度そのタイミングでリーマンショックが…投資家がハイリスク事業への投資を大幅に絞らざるを得ない状況になったのみならず、大手製薬会社もアライアンスに対して慎重姿勢となり、EXITの道筋が全く見えない状況に陥りました。プロダクトは評価されているのに、巨額な資金を使うことが前提の創薬系バイオベンチャーの難しさを痛感しました。」

苦難はありつつもタフネゴシエーションを重ね、最終的にはEXITできたという。そして小林さんの次のキャリアが、リチウムイオン電池を扱うエネルギー系ベンチャー。産業革新機構が投資した企業再生案件だった。

「国のお金が入る肝いり案件なので、経歴的にも華々しい人たちが集まってきてここでもまたユニークな経験ができましたね。再生というミッションには別の難しさがあり、携わる期間は短めでしたが濃密な経験を積むことができました。」

15年目のはてなは、なぜ上場したのか?
今後も“変わった会社”であるためにできること

2つのベンチャーでは外部資本が多く入っていたり、研究開発等に億単位のファイナンスが常に必要だったりと資本政策が難しく、CFOとしては高度なテクニックと多様な利害関係者との対話能力が求められたのではないだろうか。上述のベンチャーで一定の成果を残した後、また違った環境に身を投じてみたいと考えはじめた小林さんのもとに、著名ネットベンチャーのはてなから声がかかったのは、そんなとき。

「外部資本が入っていないような起業家が自己資本で経営する純粋なベンチャーで、これまでの経験を活かしながら、株式上場準備を通じて会社の成長に資することができたらいいなと思っていたら、本当に出会えたんですよね、しかもその最たる会社に(笑)。ありがたいことです。」

−−はてなに移られて、今どれくらいですか?

「4年ちょっとですね」

−−どんな経緯で上場されたんでしょうか。

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「IPOの準備は2年や3年は最低でも掛かりますし、事業成長の予兆も見極めないといけない。その点、当社はその二つのタイミングがぴったり合いました。会社の業績は読めないところがあるのですが、当社が取り組んできたコンテンツマーケティングやテクノロジーソリューションなどのサービスは、中期的に伸ばしたい部分の成長予兆が明確になり、IPOの申請時期と見事にマッチしました。急成長のIT企業に比べるとゆっくりに見えるかもしれませんが、設立後15年くらいで満を持してIPOする企業は少なくないので、時期としても適正だと思いますね」

−−目的のひとつも果たし、今後はてなでは何をしたいですか?

「上場したことで、投資家や金融機関との対話を強化するなど、Financialの領域はしっかり対応していきたいですが、一方で、“F”ではない部分の重要性も高まっています。はてなは特に人が財産。働く人がいかに生産性をあげられるか。そこに真っ向から取り組んでいます。例えば、自転車通勤支援やまかないランチ無償提供等の制度をいち早く導入する等、一般的には変わった制度を意欲的に採り入れている会社です。変わったことをやって目立ちたいわけではなくて、全ては生産性を高めるための施策です。上場会社としての規律を維持しながら、生産性向上の施策を維持、発展させていくことは働く環境整備に加えて企業価値向上にも資すると考えています。」

CFOに大切なのは、ブレーキ、アクセル、専門性。
そして「自分への期待値に応えられているか」

−−小林さんにとって、CFOってどんな仕事ですか?

「機関ではなく機能なのでCFOの設置は会社の判断です。とはいえCFOに対する期待役割には共通のコンセンサスがありそうです。投資家や債権者からはCEOのブレーキとして機能する期待役割。一方でCEOや経営陣からは、財務戦略やIPOで会社を前に進めるアクセルとしての期待役割。そして弁護士や会計士等の専門家からは専門性の高い内容を会社に正しく伝える翻訳者としての期待役割。時には背反する複数の役割と真摯に向き合い、偏りなく対話しながら最終的なアウトプットは企業価値を高めること、それがCFOの仕事だと考えています。」

−−私たちも「CFOは攻撃も守備もできる人材」と位置付けていますから、そのご意見がすごくうれしいです。

「あと実は大切なのが、外部からの期待役割に加えて自分からの期待値です。『リスクを取ってCFOをしているのだから、それに見合う楽しみ・やりがいを感じていますか?』ということ。自分が思い描いていたことがCFOになったことによって出来ているかというのは重要な要素だと思います。ブレーキ、アクセル、専門性に加えて自分からの期待値、いずれも大切です。そのうえで、自分が行くべき会社を見極めてほしいですね。仮にCFOになる機会があったとしても、CEOとの信頼関係がベースにないと本質的なCFOの役割が果たせないかもしれません。大きな責任を負う立場ですのでその前提となる信頼関係はとても重要です。そして会社と出会うには運もあります。だから経営者やベンチャーのコミュニティに積極的に参加し、チャネルを広げてほしいですね」

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【プロフィール】
株式会社はてな 取締役 CFO コーポレート本部長 小林直樹
1963年生まれ。一橋大学大学院修了。1987年不動産ディベロッパーへ。1998年に監査法人トーマツの子会社でベンチャー企業支援業務を担当。2005年創薬系バイオベンチャーでCFO。2011年エネルギー系ベンチャーで企業再生に従事。2012年はてなのCFOに就任。2016年に東証マザーズ上場。

はてなが提供する個人向けサービスは、国内最大級のソーシャルブックマークサービス「はてなブックマーク」や最新鋭のブログサービス「はてなブログ」など。また個人向けサービスの企画・開発・運営で培った技術力やユーザーパワーを活かし、企業向けに様々なソリューションやサービスも提供している。オウンドメディアCMS「はてなブログMedia」やサーバ監視ツール「Mackerel」、ページ単位でコンテンツ内容を判定・広告表示を適切にコントロールできる「BrandSafe はてな」など。また、おもにコンテンツプラットフォームなどのWebサービスおよびアプリの共同開発事例も多数。

 

執筆者

NEXT CFO 編集部

 NEXT CFO編集部

CFOを増やすことで日本国経済をちょっとよくしたい! もっとCFOについて、知ってもらいたい。CFOに興味を持ってもらいたい。CFOになろうと考えてほしいと願っております。