2017年上半期のIPO動向と取り巻く環境についてvol1

この記事は2017年11月発行のREVOLVING DOOR vol.17より転載しております。

Ⅰ. 2017年上半期IPO動向について

IPO 2017年 動向

2017年上半期におけるIPO(新規株式公開)の社数は前年と比較して1社減の39社となった。事実上2013年からスタートした「アベノミクス」によって、日本の株式市場はこの5年間、基本的には安定的な成長が維持されていることもあり、IPO社数もこれまで順調な伸びを示してきた。

但し、2015/2016年に新規上場した会社の一部に上場直後に業績の下方修正、上場前後の売上等を中心とした粉飾決算、管理部門における不正などの発生が相次いだこともあり、株式市場の安定的な推移と比べるとやや保守的な動きとなってきていることは否めない。

東証は引き続き活力ある新興市場の構築に意欲をみせているし、そのスタンスにはなんら変わるところはないと思うものの、健全な市場を維持し、投資家にとって興味ある市場であることも視野にいれれば市場に新規参入する企業に対する適正な審査目線は今後も必要なことであろう。

以上を踏まえると今年のIPO社数は昨年の83件とほぼ同じ社数程度で着地するものと考えられる。

 

Ⅱ. IPOを取り巻く環境

IPO 取り巻く環境

私見を含むがIPOマーケットの動向は日経平均株価と緩やかな相関関係があると考えられる。株価が上昇している、あるいは安定的であるという状況においては株式公開を目指す経営者が増えるのは必然だろう。資金調達、創業者利潤の獲得などのIPOのメリットが十分に享受される環境であるが故であるが、その観点からいくとこの2、3年のIPO社数の伸びの低迷は気になるところでもある。

IPOを志向する企業と接する機会が比較的多い筆者からすれば、リーマンショック以降、堅実、健全なセンスを持ち、成長性も十分に保有する企業も多く見かけるようになってきた昨今、もうすこし社数が増えてもいいのではないかとも考えられるが、それらを阻む理由が以下のとおり存在していると考えられる。

① 審査/監査の厳格化

日本においては1999年以降、各証券取引所において新興企業向けの市場が開設されたが、ここまでの間に3回の「審査/監査の厳格化」という事象が発生し、健全化に向けた取り組みがなされている。1回目はネットバブルの崩壊後である2002年、2回目はライブドア事件の後となる2006年、そして今回の2016年という流れである。

今回以前の2回については、主にIPO達成企業自体の運営の健全性を問われかねない不祥事を端緒とした事象であり、反社会的勢力や反市場勢力といった関係者との取引排除を取引所自体がIPO志向企業に求め、それらの運営の順守状況を審査上厳格に確認するというものであった。ただ、今回においては前回までと少し状況が違うと考えている。というのも、一義的に厳格化しているのは主に「監査法人」だということだ。

近年、新興市場に限らず上場企業の「不正会計」「ガバナンス欠如に起因した不祥事」が相次いでいる。昨年IPOしたAppBankといった新興企業からオリンパス、LIXIL、東芝などの大企業まで広く発生した不祥事は監査手続自体の適正性を問う流れとなり、新聞でも「監査」という文字を見ない日はないといってもいいほど世論にも影響をあたえる状況となっている。

監査法人はこういった世間の疑念を払拭すべく監査の質を上げるほかないが、これらの一連の事件が不幸にも業務を担う公認会計士資格自体の人気の低迷を招き、限られたリソースの中でこれらの対応を進めていかざるをえない背景がある。既上場企業へのリソースの重点配置を優先した結果として一部にはIPO志向企業との監査契約の解除や、IPOスケジュールの先送りのアドバイスといった対応を行う監査法人もでてきていると聞く。

繰り返しになるが、近年はこういった審査体制も踏まえ健全な経営を意識しているIPO志向企業も多い。こういった企業の成長の芽を摘まれることがない環境構築を業界全体として意識してもらいたいと切に願う昨今である。

② 東証の審査組織のリソース不足?

ここも私見を含むが、近年いわれている審査の厳格化という事象は過度に行き過ぎているとは考えていない。 数年前までは上場をゴールとして設定している経営者の存在などがクローズアップされていたが、監査や証券会社の引受審査等も強化されてきており適切に補正されてきたと考えている。

そのうえで、この2年程度の上場承認の件数の低迷を鑑みると、推測ではあるが東証の審査セクションのリソース不足も原因となっているのではないかと考えている。また、IPO承認には一定の季節変動がある。こういったものを平準化することでも若干の件数の伸びは確保されるかもしれない。東証自体の組織としての対応も望まれるところである。

 

Ⅲ. IPO志向企業の状況

IPO志向企業 2017年 動向

ここ数年でベンチャー企業を取り巻く環境は大きく様変わりしてきた。主な原因はもちろん「アベノミクス」だろう。政府が提示している「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」、いわゆる「骨太の方針」にもベンチャー企業に対する支援策がふんだんに盛り込まれているし、実際にベンチャー企業に対する支援環境は充実してきている。

ここではそれらを踏まえ、近年のIPO志向企業を取り巻く環境をいくつかのキーワードで述べてみることとしたい。

① シリアルアントレプレナーの出現

日本語訳では一般に「連続起業家」として表現される。いくつものベンチャー企業を立ち上げる起業家のことを指すが、彼らはIPOによるキャピタルゲイン、M&Aによる売却資金などを原資として起業していく。

もともとシリコンバレーで生まれた概念だが、最も著名な例はPaypalからテスラ・モーターズやスペースXに転じたイーロン・マスクだろう。近年では日本でもこういった起業家が相次いで出現している。ウノウからメルカリに転じた山田進太郎氏などがその例である。こういった起業家の出現はベンチャー業界の活性化につながるため、こういった起業家が増えていくことを期待したい。

② オープンイノベーション

持続的成長のために外部の経営資源を有効活用することを近年ではオープンイノベーションという。一般的には大企業がベンチャー企業を買収したり資本提携したりすることでグループとして研究開発力を高めていくことを想定して使われることが多い。

製品寿命が短期化していることと、バブル崩壊後各社が選択と集中を進めた結果として社内に研究開発部門を残してこなかったことがその背景にある。大企業との連携は政府も強力に推進しているし、大企業によるCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の設立や、ベンチャー関連イベントの運営なども積極化している。

これらの動きはベンチャー経営者にとってIPO以外の選択肢を与えることにもなり(M&A)そういった観点からもベンチャーマーケットの隆盛につながるといえるだろう。

③ ユニコーン企業

米国のVCであるカウボーイ・ベンチャーズの創業者が命名した言葉であり、一般的には「企業価値が10億ドル以上の非上場ベンチャー企業」を指す。VC等に多額のキャピタルゲインをもたらす存在として注目された。

大手インターネット企業の株式公開によりベンチャー企業への信用力が向上したことや、大手インターネット企業による買収の活発化からIPOだけがVCのEXITの選択肢ではなくなったことがその出現の背景にある。この流れはそのまま日本にも流入し、先述したメルカリなどもその代表例と言われている。

時価総額の大きい非上場企業の出現は確かにベンチャー企業に対する信用力向上に寄与するものではあるが、一方で未公開のため財務内容等に対する不安、一部の企業の成長鈍化や赤字脱却の不透明さに対する懸念などもあり、一部では「バブル」ではないかとの懸念が生じていることも事実だろう。実際に日本でも上場前のファイナンス時の株価よりも低い価格で公募するダウンラウンドと呼ばれるIPOを実施する企業もでてきた。

こういった事象が続くとベンチャー企業に対する資金供給者の意欲低減につながる可能性もあるため今後留意が必要であろう。

④ PE(プライベートエクイティ)投資先の再上場

今年にはいってもスシローやマクロミルなどPE投資先の再上場が相次いでいる。日本市場においてこういったケースが発生することは日本におけるPE業界の成熟が図られているという意味では非常に喜ばしいことでもある。ただ、一方で非上場化した際の株主からすれば、彼らのゲイン獲得の機会を強制的に失わせ、さらにその当事者が再上場で大きなゲインを享受することに対する不満や疑念を生じさせることもまた事実であろう。

こういった疑念を排除すべく東証もこれらのケースに対する対応策を検討してきた。2016年12月に「MBO 後の再上場時における上場審査について」とされる文書がリリースされ、こういった事象に際し対象会社における対応策検討の参考となる考え方を示している。これらの考え方をベースに、適切、健全な再上場を実現していく環境が全体として整備されていくことを期待したい。

 

【参考】2017年上期のIPO銘柄一覧

   

コード

 

会社名

 

市場

 

主幹事

 

業種

 

本社

 

公募価格

初値状況

 

連/単

 

売上高
百万円

 

総資産額
百万円

 

監査法人

公開日

初値円

対公募比%

1

3976

シャノン

マザーズ

東洋

情報・通信業

東京

1,500

1月27日

6,310

320.7

連結

1,411

869

トーマツ

2

1439

安江工務店

JQS・名2

東海東京

建設業

愛知

1,250

2月10日

1,300

4.0

単体

4,134

1,846

トーマツ

3

6543

日宣

JQS

大和

サービス業

東京

1,600

2月16日

3,000

87.5

連結

4,338

3,975

新日本

4

3557

ユナイテッド&コレクティブ

マザーズ

SMBC日興

小売業

東京

1,620

2月23日

4,500

177.8

単体

4,228

2,711

あずさ

5

3977

フュージョン

アンビシャス

岡三

情報・通信業

北海道

1,140

2月23日

2,872

151.9

単体

986

671

新日本

6

9519

レノバ

マザーズ

大和

電気・ガス業

東京

750

2月23日

1,125

50.0

連結

8,556

51,613

PwCあらた

7

3558

ロコンド

マザーズ

野村

小売業

東京

1,850

3月7日

2,625

41.9

単体

2,228

1,682

トーマツ

8

3559

ピーバンドットコム

マザーズ

SBI

卸売

東京

1,650

3月9日

3,530

113.9

単体

1,717

472

新日本

9

9325

ファイズ

マザーズ

大和

倉庫・運輸関連事業

大阪

1,250

3月15日

4,010

220.8

単体

3,493

1,184

新日本

10

3560

ほぼ日

JQS

みずほ

小売業

東京

2,350

3月16日

5,360

128.1

単体

3,768

3,155

東陽

11

3979

うるる

マザーズ

野村

情報・通信業

東京

3,000

3月16日

3,330

11.0

連結

1,410

916

新日本

12

3981

ビーグリー

マザーズ

SMBC日興

情報・通信業

東京

1,880

3月17日

1,881

0.1

単体

7,198

7,160

太陽

13

6544

ジャパンエレベーターサービスホールディングス

マザーズ

野村

サービス業

東京

550

3月17日

890

61.8

連結

11,891

6,553

トーマツ

14

3561

力の源ホールディングス

マザーズ

野村

小売業

福岡

600

3月21日

2,230

271.7

連結

20,866

12,785

三優

15

6545

インターネットインフィニティー

マザーズ

みずほ

サービス業

東京

1,320

3月21日

5,040

281.8

単体

2,427

977

トーマツ

16

3978

マクロミル

東1

三菱UFJ・大和

情報・通信業

東京

1,950

3月22日

1,867

▲ 4.3

連結

32,505

66,565

トーマツ

17

6546

フルテック

東2

野村

サービス業

北海道

600

3月22日

1,230

105.0

連結

10,446

8,434

銀河

18

6547

グリーンズ

東2・名2

野村

サービス業

三重

1,400

3月23日

1,521

8.6

連結

25,007

14,433

仰星

19

3983

オロ

マザーズ

野村

情報・通信業

東京

2,070

3月24日

4,750

129.5

連結

3,053

2,216

あずさ

20

4597

ソレイジア・ファーマ

マザーズ

みずほ

医薬品

東京

185

3月24日

234

26.5

連結

229

2,140

三優

21

3479

ティーケーピー

マザーズ

野村

不動産業

東京

6,060

3月27日

10,560

74.3

連結

17,941

16,612

トーマツ

22

3562

No.1

JQS

SBI

卸売業

東京

1,570

3月28日

3,460

120.4

連結

6,797

2,495

三優

23

6694

ズーム

JQS

野村

電気機器

東京

1,520

3月28日

2,278

49.9

連結

5,951

5,235

トーマツ

24

3964

オークネット

東1

野村

情報・通信業

東京

1,100

3月29日

1,300

18.2

連結

19,299

22,718

太陽

25

3563

スシローグローバルホールディングス

東1

野村

小売業

大阪

3,600

3月30日

3,430

▲ 4.7

連結

147,702

122,356

新日本

26

3984

ユーザーローカル

マザーズ

大和

情報・通信業

東京

2,940

3月30日

12,500

325.2

単体

784

1,232

新日本

27

6175

ネットマーケティング

JQS

SBI

サービス業

東京

1,140

3月31日

1,552

36.1

連結

8,824

2,835

新日本

28

3985

テモナ

マザーズ

SMBC日興

情報・通信業

東京

2,550

4月6日

8,050

215.7

単体

786

809

新日本

29

7940

ウェーブロックホールディングス

東2

みずほ

化学

東京

750

4月10日

721

▲ 3.9

連結

25,056

28,738

トーマツ

30

3564

LIXILビバ

東1

野村

小売業

埼玉

2,050

4月12日

1,947

▲ 5.0

連結

172,728

151,834

トーマツ

31

6548

旅工房

マザーズ

大和

サービス業

東京

1,370

4月18日

3,750

173.7

連結

21,698

2,777

新日本

32

3565

アセンテック

マザーズ

SBI

卸売業

東京

2,000

4月25日

5,950

197.5

単体

2,181

815

新日本

33

3986

ビーブレイクシステムズ

マザーズ

SBI

情報・通信業

東京

1,670

6月15日

7,700

361.1

単体

1,025

633

太陽

34

6549

ディーエムソリューションズ

JQS

SBI

サービス業

東京

2,500

6月20日

7,100

184.0

単体

7,627

2,307

あずさ

35

3987

エコモット

アンビシャス

岡三

情報・通信業

北海道

2,730

6月21日

4,195

53.7

単体

739

566

新日本

36

6550

Fringe81

マザーズ

野村

サービス業

東京

2,600

6月27日

6,060

133.1

単体

4,520

1,623

新日本

37

3988

SYSホールディングス

JQS

東海東京

情報・通信業

愛知

2,560

6月30日

5,530

116.0

連結

3,755

1,894

トーマツ

38

6551

ツナグ・ソリューションズ

マザーズ

野村

サービス業

東京

2,130

6月30日

4,515

112.0

連結

5,087

2,077

新日本

39

6552

GameWith  

マザーズ

大和

サービス業

東京

1,920

6月30日

4,490

133.9

単体

994

1,211

あずさ

執筆者

NEXT CFO 編集部

 NEXT CFO編集部

経営者・管理職にCFOの役割を広めたい!CFOが活躍する社会をつくることで、日本経済を活発にしたい!そんな想いでNEXT CFOのメディアを運営しています。