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企業の成長に伴う経営課題の変化~3つの企業ステージを踏まえて~

経営者の皆さまと話していて、「会社を経営していく中で、“企業として成長した”と感じるポイントが何度かある」という話をよく伺います。
そして、それは必ずしも『いい意味での“成長”』だけとは限らない、という言葉も合わせて。

本稿は、企業の成長ステージを踏まえた、会社の課題の変遷や経営者の方がその際に考えていることや悩みやすい内容について、様々な視点からご紹介したいと思います。

総論として、ステージの変わり目に起こりやすいことは大きく分けて以下の3点であると言えます。

【1】 理念・ビジョンが薄まってしまう
【2】 組織化(仕組み化)が追いつかない
【3】 “イマ”の組織を超える価値を経営者が生み出せない

これまでのご経験で共感できる部分は“アルアル”と、また、今後の会社に起こりそうなことについては“なるほど”と思ってご一読いただき、転ばぬ先の杖をご準備いただければ幸甚です。

 

≪創業期の特徴と課題≫

創業期 成長 企業経営

創業期の特徴はなんと言っても「従業員全員でなんとか売上をつくることにチャレンジする」時期であることです。会社ができたばかりで知名度もなく、「社長だから」・「入社したばかりだから」等は関係なく、全員が会社の事業を成り立たせること、売上をつくること、を最大限考えて行動している時期です。

とくに、10名程度の従業員規模までは、社長や役員等の創業メンバーとの距離が近く、コミュニケーションを取る機会も多くあるため、全員が比較的同じ思いで仕事をすることができます。また、意識の部分で特徴的なことといえば、従業員全員が『自責の精神』を持っていることが多いです。

「だれかに与えてもらう」「だれかが何とかしてくれる」「環境や他人が悪い」等ではなく、「自分がなんとかする」「自分でつくり出す」「自分が改善できれば解決する」という意識で取り組んでいる会社が多く、逆に言えば、そういう意識で全員が取り組まなければ創業期の会社で仕事をするのは難しいともいえるのだと思います。

そのように思いが強く、意識の高い人が集まって、そこからモノ・サービスが売れてくると(あるいはさらに売っていくために)、徐々に従業員を増やしていくことを考えます。そして、従業員が30名程度まで増えてくる(創業期の中の後期)と、ひとつの大きな壁に差し掛かります。

それは『創業メンバーだけでは全員を見きれなくなる』ことです。数名~10名までと違って創業メンバーの会社への思いや仕事の考え方等を浸透させづらくなります。ここで重要なのは、同じ思いを同じように部下に伝えてくれる中間層(ミドルマネジメント層)をつくること、です。

これに成功すれば会社はさらにもう一段階成長できることになります。しかし一方で、これが上手くいかないと“30名の壁を越えられない”という経営者(創業メンバー)にとって大きな悩みとなります。

上記に対して取られる対策はシンプルです。

中間層の人材を、

  ①:外から採用してくる
  ②:中から育成する
  ③:①、②両方

というパターンです。

いずれにせよ、メリット・デメリットがあるため、自社の状況とも照らし合わせて考える必要があります。

①については、この時期は創業メンバーの知り合い等も多いです。ある一定、その人の能力や経験、性格等も知っているというメリットがある一方で、ちょっとしたずれや考え方の違い等もあるため、そのすりあわせがしっかりできるか否かがポイントとなります。私はこれを“適切なケンカ”と呼んでいるのですが、会社を創業されたご経験がある方とお話すると、共感して頂けることが多いです。

他には人材紹介会社を通じて採用するという方法もあります。こちらもメリット・デメリットは前者と同様です。この時期は、前述の通り、兎にも角にも“売上をつくり、会社を存続させること”が最大且つ喫緊の課題です。

そのため、育成にゆっくりと時間をかけていられないことも多く、外部から採用し、仕事をしながらフィットするようにしていく、という対策になりやすいです。

②について特徴的なのは、新卒を育成するような長期的な視点ではなく、短期的に中間層の役割を担ってもらえるか否かを重要視する点です。

前述の通り、育成にかけられる予算も人的リソースも時間的余裕も多くなく、そのため、すぐにその役割が担える、または、少し時間はかかるかもしれないが、会社が大きな手間をかけずとも仕事の中で役割が担えるレベルまで成長してくれる、と思えるレベルでないとなかなか抜擢しづらい部分があります。

また、少人数で創業期を支えてきた仲間が突然中間層とはいえ上司になるため、少なからず影響が出てくる可能性もあります。そいうった状況を考えると、①をメインとするが②の可能性も模索する(②はよほど周囲からも信頼があり納得感のある人材でなければ抜擢しない)という併せ技である③を選択される会社もあります。

さて、つづいて成長期に移りますが、この後、企業が成長するにしたがって、課題も対策も気をつけなければならないポイントも、より複雑化していきます。

 

≪成長期の特徴と課題≫

成長期 成長 企業経営

成長期の特徴は、大きく“創業メンバー第一”だった状況から変化してくることです。創業メンバーよりも、その後入社した従業員の方が優秀な場合も出てきます。こういったときにどういう判断(人事)をするのかも大きなポイントのひとつです。

組織はトップにいる人(経営層)がアッパー(上限)になりやすいです。もし上記判断において、創業メンバーに厳しい判断ができなければどうなるでしょうか。厳しい表現ですが、温情や固執が生まれ判断がぶれた場合、さらに会社を大きくしてくれる人材は生まれず、また、優秀な人材が辞めていってしまう、ということにもなりかねません。

会社が大きくなり、部下から慕われたり仕事を教えたりということも増えてくる時期ですが、教える立場には、自分自身が変化・成長しつづけられる人を配置しなければなりません。そうでなければ、会社としても個人としても市場価値がどんどん下がっていくことになります。逆にいえば、常に変化・成長しつづけられる集団であれば、市場価値を高めていくことができるでしょう。

さらに、この時期については、経営体制としても、CEO・CFO・COOといった役割分担がでてきます。「社長が何でもすべて決めています」というやり方ではやりきれなくなり、経営陣にもそれぞれの専門性を発揮していくべき時期となっていきます。これは経営陣の組織化ともいえますが、会社全体としても組織化(仕組み化)が進んでいきます。

「個の突破から組織での突破への変革」、と言えると思います。もちろんこの判断も会社によって千差万別です。少数精鋭で売上を伸ばし、ひとりひとりの売上や給与は高いが、それ以上は従業員を増やさないという選択をとる会社も当然ありますし、社会全体や業界全体への影響力を拡大するために、人を採用し、会社規模を拡大していく企業もあります。

そうなると、新卒採用を始めるのか否か、社内の育成(研修)体制はどうするのか、役職やマネジメントラインの試行錯誤、人事面談や従業員満足度調査の実施、評価の仕組みや賃金制度の整備等々、人に関する課題や取り組むべき事項がどんどん出てくる、ということにもなり得ます。

合わせて、この時期は“事業”について考える時期でもあります。創業期に展開し会社の成長を支えてくれた事業が、かならずしも今後も主力事業とは限りません。スケールする事業に集中的にヒト・モノ・カネを投入することで、会社の未来をつくっていくということも経営判断のひとつとなります。

以前、ある会社の社長と話していた際に、『経営はやるべきことを決めることよりもやらないことを決めることの方が重要』というお話を伺いましたが、まさしくこの時期の社長の思考はこういうことなのではないでしょうか。

企業経営 成長  IPO 新規株式公開

さて、少数精鋭ではなく会社を拡大したいと考えた場合、成長期にはひとつの選択を考えるようになります。「IPO(新規株式公開)」です。

ここでは詳細には解説しませんが、既知の通り、様々な条件をクリアしなければならず、組織の仕組み化をさらに進めていかなければなりません。この段階までにも、少しずつ会社の仕組み化は進んでいると思いますが、加速度的に仕組み化しなければならなくなる可能性が高いです。

リスクになりうる事項についての予防策を講じる等が仕事のウェイトの多くを占める人も出てくるため、これまでよりも事業以外のことを考えることが多くなっていきます。

そうなると、組織としてのルールがより詳細に整備されていくとともに、ルールのみならずシステムの導入等により仕組みとして統制をかけていく施策も講じていきます。

当然ここにもヒト・モノ・カネといったリソースを割くことになっていきます。さらに具体的に上場に向けて進めていくとなると、ストックオプションをどうするか等の課題も出てきますし、CSR(社会的責任)の観点や働きかたの多様化(障害者雇用や女性活躍推進、高齢者の再雇用、外国人採用、残業時間の低減、テレワークの推進等々…)といった視点でも検討すべき事項が増えていきます。

会社組織として、さらに多岐に渡って対策を講じる必要が出てくるのです。

 

≪成熟期の特徴と課題≫

何人かの経営者の方とお話させて頂いた際に、こんな言葉を耳にすることがあります。「従業員の質が変わってきた」と。これは良くも悪くも会社が大きくなってきたことを示しているのだと思います。

会社が大きくなり、知名度も上がっているため、その会社に入社することがゴールになる人さえ出てくる可能性もあります。本来、企業は、理念・ビジョンを掲げ、それに向かって全員で尽力していく組織です。

しかし、「この会社に入れば“自然と掲げている理念が実現でき”、“その一員に自分もなれる”」という思考になってしまうケースもあるため、本当はその会社にジョインした後が大事だということを明確に示していかなければなりません。

ピーターの法則やパーキンソンの法則等もこの時期の経営においては“アルアル”なのではないでしょうか。人事制度についてもさらに工夫をしたり、バージョンアップさせていく必要がありますし、システムの導入や福利厚生の充実化あるいはスリム化等もあらためて考える必要がでてきます。

 

≪企業の成長ステージの先に≫

企業経営 成長 未来

ここから先は、企業がもう一度進化していけるか、はたまた、衰退していくのかという岐路に立たされることになります。

次なる事業をつくり、ヒット商品を生み出し、いままでにない仕組みやソリューションを開発し…といった進化ができるかは、会社全体の課題といえるでしょう。

私は、企業の成長においては、“0から1を作れる人材”と“現在の延長線上でさらなる価値を生み出せる人材”のいずれも必要だと考えています。イノベーションを語る際には、よく前者で語られることが多いですが、それだけを目指すべきではないと思っています。

現在の延長線上で価値を生むこともアンドで考え、様々な可能性を模索していくことが重要です。なぜなら、0から1を生み出すイノベーションは一朝一夕で生まれるものではないですし、すべての従業員がそれをすぐに創り出せるとは限らないからです。

できないというわけではありませんので誤解のないようご理解いただきたいですが、企業としてはイノベーションや大ヒット商品が生まれる過程や生み出す人は限定できません(どこから生まれるかわからないため)のでどの部署でも多種多様なチャレンジをしなければなりませんし、それまでの間会社が存続できるようにしなければならないことも事実です。

本記事をきっかけに、自社の経営や課題、対策について、“イマ”だけでなく“未来”についてもお考えいただく機会となれば幸いです。 

執筆者

武内 栄希 氏

 武内栄希 氏

筑波大学第二学群人間学類卒業。筑波大学大学院教育研究科修了。事業会社にてBtoB営業およびダイバーシティマネジメントに関するコンサルタントとして従事。自社の評価制度策定および人材育成体系構築、研修講師等を担当した後、株式会社エスネットワークスにて、組織・人事全般のコンサルティングを行う。