歴史から紐解く日本の人事評価制度の特徴と今後の展望

お金のイメージが強いCFOですが、経営者のひとりとして、じつは事業のことも組織全体のことも考えているのがCFOです。

そこで、今回はCFOが考えるべき領域のひとつである、“組織・人事”、とくに『人事評価制度』についてお伝えしたいと思います。

組織・人事の全体像

会社という組織は、ビジョン(理念)の実現のための“人”の集合体です。以下の図をご覧ください。

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図1:会社組織と人材の関係図

これは会社組織が成長していく上での“人”に関連する領域を図で示したものです。

会社組織がビジョンを実現していくためには、現在(AsIs)を正しく認識し、ビジョンに向けての中間地点である未来(ToBe)の状態像を描き、そこに向かって集った“人”が力を発揮していくことが必要となります。

これを繰り返していくことでビジョンの実現に近づいていきます。そして、それを実行していく上で重要になるのが、“人”をどのように活かしていくのか、というポイントです。

具体的には、会社組織における人材マネジメントの方向性を定め、採用の段階で必ず持っていてほしいもの(マインドや能力、経験等)と入社後に育成できるもの(マインドや能力、経験等)、個人として実現可能な働きかたを明確化し、それらをもって従業員が一致団結してビジョンという同じ目標地点を目指す、これが“人”という着眼点から会社組織の成長(進化)をシンプルに表現した図です。

会社組織がビジョンを実現していくためには、“人”の成長を促し、活かしていくことが必要不可欠であり、上記の領域それぞれを意識して“人”に関する施策を検討していく必要があります。

 

“人”を動かす「仕組み化」と「直接的な働きかけ」
人事評価制度 組織マネジメント

それでは、どのように施策を検討していけばよいのでしょうか。ここでポイントとなるのが、「仕組み化」と「直接的な働きかけ」です。ここでいう「仕組み化」の例としては人事評価制度⁽*⁾が挙げられます。

一方で「直接的な働きかけ」の例としては上司・同僚・部下・先輩・後輩等働く上で関わる“人”とのコミュニケーション等が挙げられます。

前者は、上位の役職に昇進する(自身の給与を上げる)ためには、どのような成果・どのような行動(能力の発揮)が期待されているのかを明確にすることで、業務に携わる中での成長を促す方法です。

新卒入社でも中途入社でも、自分が現在どの位置にいて、何をクリアすれば上位を目指せるのかを示してあり、
期ごとに目標設定と振り返りを繰り返す仕組みです。

後者は、そのときそのときの従業員の状況にあわせた育成方法です。仕組み化ではなく、その“人”の状況にあわせて柔軟に対応できる点が特徴です。

信頼関係を構築し、適切かつ適量のコミュニケーションを日々とっていき、その中で部下の状態の変化や業務の状況を把握しつつ、成長を促すための助言等も行っていくことになりますので、非常に有効でありますし、効果の即効性もあると思います。

しかし、その分、多くの部下を抱えていたり管掌エリアが広かったりすると、そこに割く時間が大きくなりすぎてしまう、ひとりひとり細かくは見きれないといった課題が挙がってくるということもあるのではないでしょうか。(実際にそのようなマネジメントに関するご相談をいただいたこともしばしばございます)

当然ながら、仕組み化と直接の働きかけはそれぞれにメリット・デメリットが異なりますので、双方の特徴を理解した上で、うまく活用しながら、“人”の育成を考えていくことが大切です。

本記事では、以降、仕組み化の代表例である「人事評価制度」について詳しくみていきたいと思います。(マネジメントに関しては、第2回、第3回の記事の中で触れていければと思います)

人事評価制度の歴史

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それでは、つづいて、人事評価制度の歴史を確認しておきましょう。

日本における人事評価制度を語る上ではずせないのは、長きに渡り、「終身雇用制度」と「年功序列の賃金体系」が採用されてきたことです。
これは欧米諸国とは大きく異なる点であり、この日本特有の文化が、1990年代以降トレンドとなった“成果主義”が根付かなかった要因のひとつともいえます。

その後、コンピテンシー評価の工夫や360度評価の導入等、人事評価も試行錯誤する時代に突入していくことになります。

一方、欧米諸国では、“職務の価値”にフォーカスした評価制度が構築されました。これは「職務給制度」と呼ばれ、1960年代から広く普及した考え方です。

しかし、職務給制度については、業績に対する無関心やチームワークの阻害等の課題が表出しました。そのため、その後、欧米においては、GE社に代表される「業績と能力の2軸での評価」が主流となったという流れがあります。

 

日本と欧米の違いの原点

このように、日本と欧米では人事評価制度に関するたどってきた歴史が異なっているわけですが、ここでその原点として2つのポイントに触れておきたいと思います。

ひとつめは、歴史上、戦争や飢饉、天災等によって労働力が不足した際に取られた施策の違いです。

上記に対し、日本は「労働力が業界間、または会社間で移動してしまい、労働力の過不足バランスが悪くなることを防ごう」という施策を講じた一方で、欧米では、「余剰の労働力がある業界または会社から、労働力が不足している業界または会社に人を移動させてバランスをとろう」という施策を講じました。

この違いが後の文化・考え方の違いを生んでいるといえます。

ふたつめは、日本と欧米における「担当業務の考え方」です。

日本においては、図2のようになることが多く、メイン業務については明確に担当が決まっていますが、その他業務について同じ人が担当するとは限りません。

その他業務については、その時々の状況や緊急度、優先順位、担当できる能力を有する人員の在不在、または、担当できるマンパワーを有する部署等を鑑みて柔軟に配分する形をとる傾向があります。

 

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図2:日本における担当業務の特徴

一方、欧米においては、目指す組織の形を必要な担当業務に切り分け、各々の担当者を明確にする傾向があります。

逆に考えれば、担当職務を組み合わせていけば、必然的に組織に必要な形になるような設計になっている(きれいにパズルがはまるイメージ) といえます。

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図3:欧米における担当業務の特徴

生産年齢人口の減少と働きかた改革

さて、以下の図の通り、日本の将来の人口は2050年には、総人口1億人を割り、生産年齢人口も5,001万人まで減少、総人口に占める生産年齢人口の割合は51.5%まで低下すると推計されています。生産年齢人口がピークを記録していた1995年と比較すると、総人口は1億2,557万人、生産年齢人口8,717万人、総人口に占める生産年齢人口の割合69.4%と大きな変化が起こっていることが見て取れます。

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(引用)総務省ホームページ 「我が国の労働力人口における課題」より

日本の経済・産業に大きな影響を与える本課題については、その対策として、大きく2つの観点で施策が検討されています。

 ①労働力を増やす
 ②生産性を高める

の2点です。

①の中にはさらに2つの視点があり、ひとつは出生率をあげること、もうひとつは、働ける力があるにもかかわらず環境等様々な理由によって現在働くことができていない人材をより積極的に活用していくというものです。

働ける力があるにもかかわらず環境等様々な理由によって現在働くことができていない人材とは、女性や外国人、障害者、高齢者(アクティブシニア) 等を指していることが多いですが、こういった人材の活用について、少しずつ取り組みが進んできています。

「働きかた改革」に代表される“人”への施策が昨今大きく注目を集めていることからもその重要度がみてとれます。しかし、注目を集めている一方で、まだまだ継続して取り組むべき課題であることも事実です。

さて、上記の課題も踏まえ、本記事にてお伝えしてきた「人事評価制度」の今後の展望を考察したいと思います。

今後、日本における人事評価制度に求められることは、ダイバーシティ&インクルージョン(多様性)を鑑みた人事評価の仕組みづくりであると考えます。

「働きかた改革」において、働く時間や場所について積極的な議論や取り組みがなされている一方で、そういった多様な働き方に対する評価をどうしていくのか、については、まだまだ議論や取り組みが手薄な部分といえます。

まだ事例が少ないからこそ、評価まで含め「働きかた改革」にチャレンジされる企業がでてくると、その取り組みはモデルケースとして模倣されることにもなりうると考えられます。

しかし、言うは易し行うは難し、です。
働く場所や時間の制限がなくなり自由度が高まると、評価にも大きく影響してきます。

現在導入している事例も多いコンピテンシー(行動評価)の項目等は、そのプロセスを上司が見ることが困難になるため、変化が求められることになります。

ある意味では、日本の文化になかなかなじまなかった「成果主義」が評価の中心になってくることも考えられます。

もちろん、これはひとつの可能性にすぎませんが、働き方改革による変化は、時間や場所にとどまらず、その先の評価やマネジメントにも大きく関連してくるものといえます。

働き方改革の先にある評価・マネジメントとはどのようなものなのか、いまのうちに考え議論しておくことが重要であると考えます。

以上、本記事では、人事評価制度の総論として、歴史や特徴、今後の展望についてお伝えしました。

今後、ダイバーシティ&インクルージョン(多様性)を鑑みた人事評価の仕組みづくりやマネジメントについて、もう少し詳しくご紹介する記事も掲載していきたいと思います。

 

⁽*⁾人事評価制度とは…従業員を、企業の定める基準(業績・能力・態度 等)に沿って評価し、役職登用や昇格に反映させたり、昇給や賞与額査定等の処遇に反映させる仕組みのことを指します。主に、等級制度・評価制度・賃金制度(報酬制度)の3つから構成されます。

 

執筆者

武内 栄希 氏

 武内栄希 氏

筑波大学第二学群人間学類卒業。筑波大学大学院教育研究科修了。事業会社にてBtoB営業およびダイバーシティマネジメントに関するコンサルタントとして従事。自社の評価制度策定および人材育成体系構築、研修講師等を担当した後、株式会社エスネットワークスにて、組織・人事全般のコンサルティングを行う。

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