• ホーム
  • CFOセンス
  • コンプライアンス最前線vol.2 米国反トラスト法違反による計り知れないダメージに注意

コンプライアンス最前線vol.2 米国反トラスト法違反による計り知れないダメージに注意

この記事は2017年7月発行のREVOLVING DOOR vol.16より転載しております。

コンプライアンス最前線vol.1 独占禁止法上の優越的地位の濫用によって億単位の課徴金を課されないために
コンプライアンス最前線Vol.3 下請法違反による経済的負担を避けるためになすべきこと
コンプライアンス最前線vol.4 景表法違反の広告等がもたらす経営リスク
コンプライアンス最前線vol.5不当な取引制限による 重大な悪影響を 避けるためになすべきこと

 

企業経営に関して経営陣が知っておくべきコンプライアンス・イシューとして、今回は、近年新聞などでも報道されている日本企業のカルテルによる「米国競争法(反トラスト法)違反」について簡単に説明します。

 

1.カルテルによる米国反トラスト法違反は日本企業にとっても他人ごとではありません

manhattan-2546538_1280

日本のある部品メーカー(A社)の法務担当者のもとに、米国の子会社からの連絡がありました。A社が製造し米国子会社を通じて販売する部品に関する米国反トラスト法違反の調査のため、書類の提出等を命じる大陪審召喚状(サピーナ)を受け取ったとのことでした。

A社で社内調査を実施したところ、A社の営業部門が日本国内において競争業者とある部品の価格に関して情報交換をしていたことが判明しました。その部品が、米国の子会社を通じるなどして米国でも販売されていたことから、米国反トラスト法違反に関する捜査対象となったのです。

このようにして、近年、日本企業が米国競争法(反トラスト法)違反として摘発される事態が続きました。これは、米国において、違反行為が米国外でなされたものであったとしても、違反行為が米国の取引に直接的で実質的かつ合理的に予見可能な効果を及ぼすなどするものであれば、反トラスト法の適用があると解されていることによるものです。

すなわち、日本の競争業者間で価格調整などの合意が日本国内でなされた場合であったとしても、その対象製品等が米国内で販売されるなどしているのであれば、反トラスト法の適用を受けることになるのです(他の多くの国でも同様の考え方が採用されており、各国の競争当局は、自国の市場に影響を及ぼす競争法違反行為について管轄権を有していると解しています)。

 

2.反トラスト法によりカルテルは厳しく処罰されます

①会社に対しては巨額の罰金が課されます

米国においては、カルテル、特に価格、数量、市場分割に関する競争者間の合意や入札談合は、反トラスト法により極めて厳しく処罰されます。すなわち、カルテルについての会社に対する罰金額は、1億ドルが上限額とされているものの、この上限額は、違反行為で得た利益または与えた損害額の2倍に相当する金額まで引き上げることができるものとされています 。

その結果、過去には、下の表のように巨額の罰金を課された会社があるのです(ただし、実際の量刑は、通常、連邦量刑ガイドラインに従って決定されます)。

es_p16_17_170620

なお、このようなカルテルの摘発に関しては、リニエンシー(アムネスティ)の制度が大きな役割を果たしています。すなわち、カルテルを行った会社がその違反行為を行ったことを自ら米国司法省(DOJ)に申告した場合、その後の捜査への全面的な協力などを要件として、当該会社はそのカルテルに関する刑事訴追を免れることができるものとされてます。

もっとも、この刑事免責は、最初に申告した者に対してしか認められないことから、カルテルを行ったことを認識した会社は、我先にと申請を行うことになるのです。

しかも、仮に発見が遅れるなどして、1番目の申告をすることができなかったとしても、他の製品等に関するカルテルであって当局が把握していないものを申告することができれば、当該他の製品等についてリニエンシー(アムネスティ)による刑事免責を受けることができるほか、1番目の申告を行うことができなかった製品についても罰金額の割引を受けることができる「アムネスティプラス」といった制度を利用することもできるのです
(逆に、他の製品のカルテルを競争当局に申告しなかった場合には、当該他の製品に係るカルテルが摘発された際に、量刑上極めて不利に扱われる制度(ペナルティプラス)も存在します)。

このような制度によって、カルテルを行った会社は、競ってリニエンシー(アムネスティ)を申告することとなるため、芋づる式に次々とカルテルが摘発されていったのです。

②カルテルに関わった個人はカーブアウトにより難しい立場に置かれます

上記の刑事免責を得ることができなかった場合、通常、DOJとの間で司法取引に関する交渉を行います。この司法取引を行った場合、会社は、DOJとの合意内容に従い、当局の捜査に積極的に協力などすることで、量刑上、有利な取扱いを受けることができるのです。この司法取引は、原則として当該会社の従業員や役員なども刑事免責の対象とするものです。

しかしDOJは、カルテルの撲滅のためには、それに関わった個人(それもできるだけ高い地位にいる人物)を処罰することが重要であると考えていることから、通常、カルテルに関わった従業員やこれを行わせ、またはそれを黙認した役員等の個人数名を司法取引による免責の対象から除外します(これをカーブアウトといいます。なお、各司法取引において2名から5名程度のカーブアウトが行われることが多いとされています)。

しかも、DOJは、日本企業を司法取引に応じさせるためには、カーブアウトが有効であると理解しています。そのため、日本企業が対象となった場合、罰金額もさることながら、カーブアウトされる人物及びその員数も司法取引を行うにあたっての中心的な論点となるのです。

カーブアウトの対象となった人物は、必ず起訴されるというわけではないものの(近年ではカーブアウトされた人物の6割程度が起訴されているとのことです)、会社とは別の弁護士をつけて独自に対応することが必要になります。そして、DOJと司法取引をするものとした場合、現在の実務では、禁固刑に服することとなり、米国において刑務所に収容されることになります。

実際、2010年以降自動車部品メーカーを中心として、カルテル等によって既に30人を超える日本人が収容されているとの情報があります。

なお、カーブアウトされた人物が日本に居住する日本人である場合、日本から出国せずに日本で過ごし続けるといった対応をとることも考えられます。これは、

① ある人に対する刑事裁判を行うためには、当該人物が米国の法廷に出頭する必要があること
②これまでのところ日本政府が、カルテルを理由として、日本人を日米犯罪人引渡条約に基づいて米国に引き渡したことがないことから、当該人物は、日本にいる限りこれまでと同様の生活を行うことができる(と見込まれる)こと

によるものです。

ただし、DOJは、② の引渡しの実現に意欲を燃やしているとも言われていますので、今後も、上記 ② のような取り扱いが続くかについては予断を許さないところです。

 

3.カルテルは多数の民事訴訟(損害賠償請求訴訟)を生じさせます

law-1063249_1280

カルテルの影響は、刑事手続にとどまりません。その後に提起される民事訴訟も会社に計り知れないダメージを及ぼします。

すなわち、DOJは、反トラスト法違反に基づき有罪となる者がいる場合(裁判所で有罪答弁がなされた時点や司法取引を行った時点で)その事実をホームページ等で公表します。

この公表や報道等でカルテルが明らかになると、通常、カルテルの対象となった製品等の直接購入者や、間接購入者により構成されるクラスによる集団訴訟(クラスアクション)が多数提起されます(さらに、クラスアクションに参加せずに、独自に訴訟を提起する者もいます)。

そのため、カルテルを行った会社では、これらの訴訟に対応する必要が生じます。しかも、カルテルの刑事処分において反トラスト法に違反した旨の裁判所の最終的な判決等が下された場合、それが、当該判決の対象となった者に対するその後の訴訟等において、その者が反トラスト法に違反したことの一応の証拠になるとされています。

また、当該カルテルについて、リニエンシー(アムネスティ)を行った者がいる場合、その者は、被害者の被害回復に協力する義務を課されますので、原告に対する証拠の提供等を行います。その結果、例えばDOJとの司法取引(最終的に裁判所で有罪の判決を受けます)を行った会社は、民事訴訟においても、極めて厳しい状況に置かれることになるのです。

なお、カルテルを理由とした損害賠償請求は、いわゆる三倍賠償の対象となります。そして、カルテルに参加した各社が負担する賠償額(価格協定によって引き上げられた価格相当額)は、自らが製造販売した製品等に係るものだけではなく、カルテルに参加した会社が製造販売したカルテルの対象製品全てに係るものとされており、しかも、一部の者が負担した場合にこれを他の者に対して求償することはできないとされています。

そのため、当事者の一社のみが民事訴訟で損害額全額についての損害賠償を命じられるようなこととなれば、他のカルテル参加者に求償することもできず、当該一社で巨額の損害賠償額を負担しなければならないといった事態に陥ることすらあり得るのです。

このようなこともあり、多くの場合、上述の民事訴訟は、被告であるカルテルを行った会社が和解金を支払う内容の和解を行うことで終了します。米国の弁護士費用は、訴訟が進めば進むほど巨額なものとなり、それだけで数億円に及ぶこともあることから、早期の和解を行うために、やむを得ず極めて高額な内容の和解を強いられることもあるのです。

 

4.会社への計り知れないダメージを防ぐためにはコンプライアンス体制の構築が不可欠です

経済のグローバル化が進んだ今日においては、日本国内における価格調整に係る合意が、多くの国に影響を及ぼすことも少なくありません。その結果、一つのカルテルを理由として、多くの国において多発的、並行的に調査・処分がなされること、例えば、日本、米国にとどまらず、EUや中国、東南アジアの各国において並行して調査等を受けることすらあり得るのです。

しかも、このことは、いわゆるグルーバル企業だけの問題ではありません。日本国内の中堅企業であったとしても、グローバル企業を会員とする同業者組合等での会合や会食、その他ゴルフコンペにおける情報交換などから、グローバル企業に対する競争当局の調査に巻き込まれるなどして、調査対象となることは十分にあり得ることなのです。

このような国際カルテルに巻き込まれないためには、コンプライアンスマニュアルの作成や社内の関係部門に対する定期的な研修、社内リニエンシー制度の制定等、競争法コンプライアンス体制の構築が不可欠です。特に、競争業者との接触に関するルールは是非導入されるべきでしょう。

これは、一般的に、カルテルの成立には競争業者間の接触が必要と解されていることを踏まえたものであり、競争業者との接触を禁止することでカルテルの嫌疑を受けることのないようにしたり、または、接触が不可避なものであったとしても、その事前報告や接触内容の事後報告を義務づけることで、かかる嫌疑に対する反証を用意すること等を目的とするものです。

もっとも、このようなコンプライアンス体制の構築・充実に関しては、専門的な知識が前提となります。そのため、早期にその分野に明るい弁護士の助言を受けるなどして、対応することが肝要です。

 

関連記事

コンプライアンス最前線vol.1 独占禁止法上の優越的地位の濫用によって億単位の課徴金を課されないために
コンプライアンス最前線Vol.3 下請法違反による経済的負担を避けるためになすべきこと
コンプライアンス最前線vol.4 景表法違反の広告等がもたらす経営リスク
コンプライアンス最前線vol.5不当な取引制限による 重大な悪影響を 避けるためになすべきこと

 

執筆者

NEXT CFO 編集部

 NEXT CFO編集部

経営者・管理職にCFOの役割を広めたい!CFOが活躍する社会をつくることで、日本経済を活発にしたい!そんな想いでNEXT CFOのメディアを運営しています。

COMMENT

* が付いている欄は必須項目となりますので、必ずご記入をお願いします。

内容に問題なければ、下記の「コメントを送信する」ボタンを押してください。