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株式会社ドワンゴ取締役 夏野 剛氏の目線から見たコーポレートガバナンス改革

この記事は2017年7月発行のREVOLVING DOOR vol.16より転載・再編しております。

NEXT CFO アカデミー主催イベント『第2回CFO SALON』にもご登壇頂いた夏野様へのインタビュー記事となります。

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株式会社ドワンゴ取締役 

夏野 剛氏

株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモにてマルチメディアサービス部長や執行役員などを歴任し、松永真理氏らとともにiモードを起ち上げたメンバーの1人として知られる。同社退任後、慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科特別招聘教授に就任。株式会社ドワンゴでは取締役を務めるとともに、ニコニコ動画の『黒字化担当』として活躍。

セガサミーホールディングス株式会社やトランス・コスモス株式会社、グリー株式会社、株式会社U-NEXT、株式会社ディー・エル・イー、日本オラクル株式会社などの社外取締役を兼任。World Wide Web Consortium(W3C)では、アジア出身者として初の顧問会議委員(Advisory Board)に就任した。1965年生まれ。

アベノミクスの成長戦略における最重要テーマとして、コーポレートガバナンス改革が推進され、2015年より東京証券取引所にコーポレートガバナンス・コードが導入されました。企業の持続的な成長と中期的な企業価値向上へ向けたコーポレートガバナンス改革。その中心を担い、期待されているのが社外取締役です。

今回は、日本一の社外取締役選任社数(現7社)と言われる夏野 剛氏に、日本企業のコーポレートガバナンスのあり方から労働生産性を高めるには?また、iモードビジネスを起ち上げた実業家として、ICT投資の必要性を説いていただきました。

経営者必見のヒントが満載のインタビューです。

 

ズバズバ言うのが、社外取締役の存在価値。

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須原:夏野さんは現在、社外取締役を引き受けられている社数が実質、国内トップなんです。

夏野氏:そうなんですか。それは知りませんでした。

須原:グループ子会社の社外取締役を兼任されている方を除くと、実質1位の7社です。そんな日本一の夏野さんに、まずお聞きしたいのは社外取締役としてこれだけは絶対守ろう、こういう役割を果たそうという信条を教えていただけますか。

夏野氏:わかりました。私の信条は、遠慮をしない。慮(おもんばか)らない。空気を読まない。事前説明は基本的には受けない。

須原:それは調整してしまうからですか?

夏野氏:社外取締役が社内取締役と同じように気づかいをはじめてしまうと、耳の痛い話が経営者に入らなくなります。あくまでも普通に外の人が見たらどう思うのか、あるいは議案が上がってきたときに、ロジカルに、正当に、客観的に考えて、おかしなところをズバズバ言うためにです。

ズバズバ言わないと存在価値がありませんから。だから遠慮しない、慮らない。とくに事前説明をなるべく受けないことは非常に大事で、資料は先に読んでおきたいのですが、事前説明を受けてしまうと、そこで事情を聞いてしまうんです。だから、説明がないとわからない案件以外は、基本的に受けないようにしています。

須原:現在、務められている7社も事前説明をほぼ受けていない?

夏野氏:それは案件によります。たとえば、非常に細かいデータが必要で、難しい大きな投資の場合は受けています。ただ、事前説明を受けたときに意見を言ってしまうんですね。すると起案者が、私の意見を織り込んだ説明を取締役会でしてしまう。

もちろん意見を織り込んだうえで準備をすることは大事なことですが、こういう意見がありましたということは、他の取締役にも知っていただきたいんです。だから取締役会で直接指摘したい。

それから、遠慮をしない。慮らない。空気を読まない。これをやるためには、やはり何社かの社外取締役を受けていないとダメだと思います。そこを辞める覚悟もありながらやっていないと、若干の経済的依存が発生してしまうからです。

須原:生活がかかると何も言えない。

夏野氏:もちろんCEOや本業が忙しい方にとっては2、3社かと思いますが、私のように比較的時間が自由な人は5社以上をやっていないと、経済的依存や波風立てないようにして維持していこうというモチベーションが働いてしまうので、それは良くないです。

須原:私はU-NEXTでの社外取締役の夏野さんしか知らないのですが、確かにズバズバ言いますけども、わざと偽悪的に振る舞うことがありますよね。

夏野氏:それはわざとやっています。

須原:一方で、その場の空気についても一定の配慮はされていますよね。

夏野氏:それはさすがにビジネスマンですからね(笑)。配慮はしていますけど、そういう言いにくいことや、皆がおかしいなと思っていることをズバリと言うのが社外取締役だと思っていますので、経営者に若干煙たがられるくらいでちょうどいいと思っています。

 

日本の大企業が今問われているところ。

須原:夏野さんは新卒で東京ガスへ入社して、エヌ・ティ・ティ・ドコモで iモードも開発されて、いわゆる大企業を経験していますが、大企業のコーポレートガバナンスというのは、どうご覧になっていますか? 

夏野氏:非常に難しいと感じているのは、とくに終身雇用、年功序列、新卒一括採用などを守っている大企業ですね。大企業になればなるほど、内部の論理が外部の客観性より重要視されます。たとえば、これに30年間どっぷりと浸かっていると、東芝のようなことが起こりうるんです。

客観的にはまずい、社会環境的にもないと思うことさえも誰も言い出せない。こういうものを阻止するために、社外取締役がいるのですが、あれほどの巨大企業になってしまうと、現場で行われていることが社外取締役の耳に入ることはなかなか難しいと思うんです。そういう意味では、東芝の問題は社外取締役が機能していなかった、とは言えないと思います。

須原:そんな簡単な話ではないと。

夏野氏:もっと複雑な話だと思います。私は社外取締役というのは、企業のコーポレートガバナンス改革の第一歩にしか過ぎないと思っています。本来であれば社内取締役も含めて、社歴10年以内の人が少なくとも3割くらいいるのが普通じゃないかと。

もちろん生え抜きの取締役がいてもいいですが、優秀な人材を外から採ってくるというのが、グローバル企業のスタンダードですからね。社外取締役として社外の人が入り、「多様性はちゃんと確保できていますか?」と指摘するわけです。

それに応えて、社外の人材を適度に入れながら、企業を活性化していけるかどうか。これが日本の大企業の、今まさに問われているところだと思います。それができないとこれ以上の発展はもうないと思っています。

 

コーポレートガバナンス改革の鍵とは。

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夏野氏:日本の上場会社というのは、今本当に実力が問われています。これから日本経済は縮小に向かいます。縮小に向かう理由はただ一つ、人口が減るからです。そのなかで成長を求めるのであれば、今までにない新しい付加価値をつくりだしていかなければならない。

新規事業なのか、方法を変えるのか。やり方は色々ありますが、とにかくイノベーションを毎年起こしつづける。あるいはグローバルに大規模に出ていくか。この二択、あるいは両択をやらないで、成長はもはやないのです。という状況下で、今日本の上場企業は2つのパターンに完全にハマってしまっています。

1つは大企業型で、昭和の人事体系を崩せず、外部人材も活かせず、ダイバーシティが欠如したままの執行で、イノベーションが起こせない。イノベーションの源は摩擦ですから、フリクションが起きないジレンマに陥っています。

もう1つはベンチャー企業。次の担い手になるはずのベンチャー企業の多くが、上場時が時価総額最大でその後はパッとしない。これは明らかに上場後に経営者のモチベーションがなくなってしまっている証です。それでも経営者は居座る。

日本は本当にこの2つのパターンにはまってしまっていて、これを覆せるかどうかが、これだけ大規模に社外取締役を導入した制度に期待されていることなのです。これをきっかけにどこまで企業内を変えられるか。いい意味での勇退は、私は必要だと思うんです。

内部の論理でやるから相談役が権限をもつ。企業が成長できない。こういうことが多いほど日本は停滞します。ここをどう変えられるかが、コーポレートガバナンス改革の鍵です。

須原:夏野さんが言うように、大企業は恐竜のように身動きが取れない、働き方も変わらない。ベンチャー企業は上場がゴールになってしまっている。

夏野氏:ベンチャー企業がなぜそうなってしまったかと言えば、リスクを取らないマネーの供給をするからです。今ベンチャーキャピタルがいちばん早く上場させたがるという不思議な国になってしまっている。これはやっぱりいけない状況だと思っています。

須原:夏野さんは政府関係の仕事も多いかと思いますが、GDP600兆円を目指したときに、人口減少時代に入った日本は1人当たりの生産性を上げるしかないと思いますが、これは政府内で具体的なアクションプランになっていたりするのですか?

夏野氏:コーポレートガバナンス改革がいちばん大きな目玉なんです。つまり経営のやり方を変えれば、日経平均株価が上がるという意味では、数少ない事例でも明らかなんですよね。

経営のやり方を変えて生産性が上がったいちばんの典型は伊藤忠商事です。有名な話ですよね。今伸び盛りの企業はみんなそれをやっている。日本の企業は内部留保が上場企業で360兆円。いくらでも軍資金はあるんです。従業員のICTリテラシーも世界トップクラスです。お金があって、人がいて、技術は山ほどある。

グローバルな最先端テクノロジーもいくらでも使えるわけで、経営の三種の神器がぜんぶ揃っている状態なんです。にもかかわらず、この20年間成長ができていないのは、それは経営者が悪い。これから、あまりパフォーマンスが出ない企業経営者の新陳代謝がどんどん起こってくると、それはGDP600兆円どころじゃないことが達成できる可能性は非常に高い。

ただ、問題はスピードです。日本経済はかなり停滞していますが、これがマイナスにならないうちにはじめて効果を出さなければいけないから、コーポレートガバナンス改革は遅いくらいなのです。

 

ITで仕事をどう変えるか。まずは経営者が判断する。

p7_01須原:弊社では毎年テーマを漢字1文字で掲げるのですが、今年は集中して仕事をして労働生産性を上げようということで、集中の「集」にしました。

ただ、日本はICTが、サービス産業ではとくに活かされず、生産性につながらないと言われていますが、これはなぜですか?

夏野氏:日本はサービス産業だけでなく、製造業も含めてなんです。
製造ラインの生産性は上がっていますが、バックエンドであるホワイトカラーの生産性が低い。これは2つの理由があります。

まず1つはICTを入れる意味を経営者が理解していないこと。だから、経営者自身が陣頭指揮を執らず、情報システム部まかせになってしまっている。これがなぜいけないのかと言えば、情報システムをつくるときに問題になるのはセキュリティです。セキュリティと効率の間のどこでバランスを取るかが難しいんです。

セキュリティを強固にするほど使い勝手は必ず悪くなる。これを情報システム部まかせでつくると最高にセキュアだけど、ものすごく使いにくい仕組みになるわけです。そこのバランス点を見つけ出せるのは、責任が取れる経営者なんです。だから、これは経営者がやらないといけない。

そして、2つ目。情報システムはビジネスの武器なんです。ICTで武装して戦うわけです。その武器を自分で手入れしないでどうするの?という話ができていない。これが日本の経営者の最大の問題点です。主体的に会計やIR戦略に取り組まなければ、経営はできないという話と似ていますよね。

さらに、もう1つ言えば、ICT導入は仕事のやり方や組織のあり方をどう変えるかというところまで問われてきます。情報が簡単に伝達できるようになれば、昔の組織は要らなくなります。テクノロジーに合わせて仕事のやり方を改革したり、再発明しないといけない。これが極めてできない。というか、やりたくない。

須原:従来のルールがラクだからですね。

夏野氏:そうです。どう変えるかをまずは経営者が判断し、それと同じように各部署のやり方を再定義する。これはすごい大変なことです。だから、やりたがらない。やらないとどうなるか?

ICTは入ったけど、組織は昔のままで指揮命令系統はおなじなので、結局、紙が電子になるだけ。むしろ紙のほうが安かったんじゃないの?という話になってしまう。こういう事態が起こっているのが、今の日本。なのでこの20年間、GDP成長率はほとんどゼロ。なんでこんなことになってしまったのか、私たちは猛省しないといけないですね。

 

大チャンスは、今だ。

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須原:私たちのお客さまは中堅中小企業がメインなのですが、実はこのゾーンもICT導入がこれからで、ドイツのようにICT投資ができれば変わりますよね。

夏野氏:かなり変わりますよね。いわゆるSMB(Small and Medium Business)というのは、大企業に対抗するためにも生産性を大企業以上に上げるべきなんです。だって、そこがチャンスですから。ぜひそこで戦っていってほしいですね。

情報システムは一気にアウトソーシングして、すべてお任せしてでもつくるぐらいの勢いで進める。会計や人事も完全にアウトソーシングしている会社がありますよね。そういうことはもっと大胆にトライしたほうがいいです。自分でわからなければ、やってもらえばいいんです。

アメリカのSMBは積極的にアウトソーシングをするんです。外部の力を使うことをもっともっと日本はやるべきです。もちろん戦略的に重要な部分は自社や個人でこだわるべきですが、バックヤードはどんどんアウトソーシングすればいいと思いますね。

大企業でも推進していいと思っています。私が役員をやっている会社はGoogle AppsとかGoogle Enterpriseの導入を進めています。社内でメールサーバを持つのは愚の骨頂だと(笑)。

須原:ICT導入は外に任せてでもやるべきだと。私たちの会社でも活かそうと思います。

夏野氏:そして、最後に。これはいつも言っているのですが、この20年間日本の成長がまったくないのは、実はこれから経営に向かう人にとって大チャンスなんです。それはなぜかと言うと、おなじ先進国のアメリカは、GDP比で1996年から2016年で129%成長しています。

そのうち20%は人口ボーナス。それを除いても100%以上、つまり倍以上の成長をしているということです。GDPは企業で言えば粗利です。つまりアメリカの平均的な企業は粗利が倍になっている。これを日本はまったく実現できずに来てしまった。逆に言えば、せめてアメリカ並みにやれば、100%成長できるということです。

なので、とにかくスピードです。もうこんなに遅れを取ってしまっているので、あらゆる試みを全部やって一気に生産性を上げていくことをすぐにやるべきです。今やらないと、もう人口の減少局面に入ってしまう。ということで、大チャンスが、今だと皆さんには思ってほしいなと。

須原:いいメッセージですね。私たちのお客さまには二代目の方も多いので、先代にお伺いを立てることも多いのですが、これからはもう気にするなと。

夏野氏:気にしていてはダメです。色々あるとは思うんです。でも、結果を出すのがすべてなんです。で、私のオススメは結果の出やすいものから手をつけること。たとえばメールサーバをGoogleに移管する。これをやると維持費が一気に下がります。これは誰も文句を言わないはずです。

須原:古いルールに縛られていないで、とにかく新しいルールを使うと。

夏野氏:古いルールと言われているルールの90%は暗黙なんです。だから、つくった人もそんなにこだわっていなかったりする。慮っているだけなんですよ。どうしても自分はできないという方がいたら、私が社外取締役として入りますので(笑)。

須原:お後がよろしいようで(笑)。本日はありがとうございました。

編集後記

夏野さんとの出会いは、7年前。お互い同じ上場企業の社外役員として、知り合いました。以降、もっぱら夜のお酒を楽しくご一緒するお付き合いが続いていますが(笑)、昼間の夏野さんは真剣そのもの。取締役会では、本記事にあるとおりプロの社外取締役に徹し、あえて空気を読まずに問題を提示しながら、課題解決のための議論をリードされています。

取締役会が、経営意思決定の場としてワークしているかどうかは、上場企業の生産性に直結します。取締役会を形骸化させず、社外の立場を活用して役割を全うしていくこと。夏野さんをベンチマークに私自身、努力を続けていきます。ICT投資の必要性についても、ぜひ本文をご確認ください。私自身、耳の痛い提言であり、当社にも活かしていければと考えています。

執筆者

NEXT CFO 編集部

 NEXT CFO編集部

経営者・管理職にCFOの役割を広めたい!CFOが活躍する社会をつくることで、日本経済を活発にしたい!そんな想いでNEXT CFOのメディアを運営しています。

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