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M&Aが続く大陽日酸 シェア拡大以上の狙いとは?

本メディアでは、頻繁に企業買収や業界再編の話題が取り上げられますが、拾い切れないほど多くのM&Aが日々起こっています。今日は、産業ガス業界について紹介しましょう。2016年11月22日の日本経済新聞朝刊で、大陽日酸が豪ガス会社を買収したと報じられました。大陽日酸は2016年6月にも仏エア・リキッドから米国のガス事業を一部買収しております。次々とM&Aをしている大陽日酸、CFOなど企業経営、買収に関わるビジネスマンにとっては注目の企業です。

事業内容と財務分析

大陽日酸は鉄鋼や化学産業向けの一般産業ガス、半導体を製造する上で必要な特殊ガス、そして病院に酸素や麻酔用ガス、安定同位体など様々な分野に対し産業ガスを提供しており、ガスの精製技術、プラント製作の技術では世界トップクラスです。ここ数年の業績を見ると、海外売上比率は2013年には28%でしたが2015年には35%まで伸び、2年で総売上高は約20%、営業利益は40%増加しており、グローバル展開が進む急成長の企業です。その背景には何があったのでしょうか?

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世界の産業ガス市場

日本の人口減少に伴う内需の減少とメーカーの海外での製造が進んだことで、日本国内での産業ガスの需要は年々減少しています。それに伴い日本の産業ガス企業は海外でのシェアの拡大が必須となりました。

国内では4割の市場シェアを握るトップの大陽日酸でも、世界で見れば6%前後のシェアしかなく世界で5位であり、フランスのAir・liquid社やドイツのLinde社に比べれば海外展開は遅れています。産業ガス業界では世界的に寡占化が進んでおり、トップの数社がM&Aや販路拡大により急激にシェアを拡大しているため、大陽日酸も遅れないよう海外展開を進めているのです。

シェア拡大に向けて

日本のガスメーカーが海外でシェアを拡大するには三つのステップがあります。

一つ目はガスの販売網の構築です。大陽日酸のような技術のしっかりした企業は他社と差別化された製品の製造が可能であるため販売網を獲得すれば、シェアを拡大できます。具体的には各地域でガスの製造・販売拠点を持つ企業の買収で、大陽日酸が2016年の11月に実施した豪ガス会社スパガスの買収や、2015年6月に実施したタイのエア・プロダクツ・インダストリーの買収がこれにあたります。

二つ目のステップが自社のプラントを築いた販売網の地域に設置することです。ある地域で一定規模の販売網を獲得できれば現地で生産から販売まで一貫して行うことができ、利益確保に繋がります。2016年6月に大陽日酸はAir・liquid社からアメリカにあるプラントを買い取ったことにより大陽日酸は二つ目のステップまでクリアしました。

三つ目は「オンサイトプラント」です。大量の産業ガスを使用する鉄鋼や化学メーカーの工場内や隣接地にプラントを設置してパイプで直接ガスを提供する仕組みで、ガスを流通させる必要がなく利益率が高いのが特徴です。大陽日酸はまだ米国ではオンサイトプラントは実現していませんが、先述したAir・liquid社からアメリカのプラントを買収したことによりオンサイトプラントの足がかりを得たと考えられます。なぜなら、オンサイトプラントはトラブル発生時にバックアップできるプラントが近くの地域に必要なのですが、今回の買収で得たプラントをバックアップ用として使用できるからです。

攻め続ける大陽日酸

大陽日酸は、2015年度の営業キャッシュフローが約800億円のプラスであり、2016年度には約600億円の設備投資を予定しておりそのうち75%を海外の投資に配分する予定です。現在の世界シェアは5位ですが、オンサイトプラントによるさらなるシェアの拡大が期待されます。

執筆者

嶋本 幸之助 氏

 嶋本幸之助 氏

東京大学技術経営戦略学専攻修士2年。大学では躰道という武道に打ち込み、四年の時に主将を務め部を全国優勝に導く。その成果もあり2014年に東大総長賞受賞。大学院ではファイナンスを専攻。